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インタビュー「アジアにおけるリスクから考える拠点進出」

リスクを把握し、いかにマネジメントするかがアジア進出成功の鍵

日本貿易振興機構(JETRO) 若松 勇 氏

日本貿易振興機構(JETRO)
海外調査部
アジア大洋州課長
若松 勇

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海外投資拡大に伴い顕在化する3つの変化

─日本企業の海外進出はここ数年、増加の一途をたどっていますが、具体的に最近の日本企業の進出にはどんな特徴や変化がありますか?

日本企業の海外投資の増加の背景には、世界マーケットの拡大があるのですが、中でもこれまで途上国、あるいは新興国と言われてきたアジア地域諸国のマーケットの拡大は顕著になっています。国際通貨基金(IMF)のデータをもとに、世界経済成長に対する寄与率を見ても、欧米各国をはじめとする先進国の比率は2000年までは約8割を占めていましたが、2010年~17年までの予測では、新興・途上国が逆転して6割強にまで高まるとされています。

つまり、新興国のプレゼンスが拡大し、従来の日欧米などの先進国からマーケットがシフトしていると言えるでしょう。その中心にあるのがアジア諸国であり、日本企業の海外投資も、アジア圏への比率が高まっているのです。

こうした海外進出を詳しく見ると、最近になり3つの大きな変化が見られます。その1つが地域の変化です。日本企業の進出先は、もともとはタイ、マレーシアなどのASEAN諸国が先行していましたが、1990年代以降、とりわけ2000年代に入り、アジアへの進出は、製造業による中国進出がASEANを上回るようになっていました。しかし、世界の工場と言われるほどに集中していた輸出向け生産拠点は、企業の分散化への意識の高まりや、人件費の高騰により、ASEAN諸国に再びシフトしはじめています。

ただし、同時に、中国では拡大する国内マーケット向けの投資は継続しており、他の地域でもボリュームゾーンである中間所得層が拡大していることから、マーケットを狙った投資が従来の中国から、タイ、ベトナム、インドネシアといったASEAN諸国、インドなどへ拡大してきているのです。また、中国やタイなどの人件費の高騰や労働力不足を背景に、フィリピン、カンボジア、ラオスなどのメコン諸国、バングラデシュなどにも進出先が拡大してきています。

これに関連した2つ目が業種の変化です。これまでの製造業中心から、マーケットの拡大により、サービス産業、例えば外食産業や小売業の進出が拡大しています。外食産業では、日系の大手外食チェーンが本格的に進出しています。また小売業では、コンビニエンスストア、スーパー、デパートなど、これまで国内向けに展開してきた業態が目立ってきました。さらには、国内の少子化傾向を受けて、現地の富裕層や中間所得層を対象とした塾や音楽教室などの、教育関連事業の進出例も見られるようになりました。

ASEAN諸国では日本企業のプレゼンスが大きく、日本ブランド製品の品質に対する憧れや、きめ細かなサービスに対する信頼性が高いので、チャンスが生まれやすい環境があることも大きな要因と言えるでしょう。

3つ目は企業規模の変化で、これまでは大手はもちろん中堅企業の進出が中心でしたが、近年では中小、なかには社員数十名といった小規模企業による海外投資も見られるようになりました。こちらは製造業が多く、国内メーカーの海外生産の拡大により、国内での取引機会が縮小していることから、海外マーケットに活路を求めるといった傾向が強いようです。

業態、規模の変化とともに高まる海外進出リスク

─こうした企業の海外進出にはリスクがつきものと言われますが、実際に近年どのようなリスクがクローズアップされているのでしょうか?

言うまでもなく海外には国内とは違う環境があり、様々なリスクが存在します。海外投資におけるリスクは2つに大別されます。1つは「カントリーリスク」と言われるもので、その国の政治や社会的システム、領土問題などの外交関係、洪水などの自然災害、インフラや金融システムの未整備、さらには汚職の問題などがあります。これらは、その国で活動するうえでは避けられない所与の条件のようなもので、企業レベルでの対応は難しいと言えるでしょう。

近年アジア諸国で顕著に見受けられる「カントリーリスク」の具体的な例を挙げれば、一昨年、タイで大規模に発生した洪水は、今年に入ってジャカルタでも発生しています。洪水以外にも地震、台風などアジアでは自然災害が頻繁に発生します。また、昨年の中国との尖閣諸島の問題による反日運動、鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)などの感染症もあります。さらにインフラ未整備に伴う障害も途上国特有のリスクと言えます。例えば、インドでは電力・道路などが未整備で、自家発電設備が不可欠となっています。治安がいいとされるシンガポールでは、土地や建物などの賃貸を含めて、不動産の値上がりが障害となっています。また一部の国では賄賂の問題も取り沙汰されており、コンプライアンスを重視する日本企業にとっては頭の痛い問題でしょう。

そしてもう1つが「オペレーションリスク」です。生産部門における品質管理や部品調達の難しさ、販売面における代金回収や模倣品の氾濫、財務・税務では資金調達、税務調査や税関調査などの税制の運用、また雇用における賃金上昇や労働力不足、労働争議といった労務問題等が含まれます。特に最近では労務の問題が深刻化するケースが増えており、注意が必要です。例えば、タイでは最近、ワーカーの確保が困難になっています。インドネシアでは労働者のデモなど労働問題が頻発しています。

リスクの体系的分類と具体例

リスクの体系的分類と具体例

ただ、これらは個々の企業レベルの対応で、予防または軽減できるケースが多いのも事実です。海外進出経験が豊富で、様々な人材を揃えた大企業なら、専門チームを立ち上げて事態に対処することもできるでしょう。しかし、これまで国内市場のみをターゲットとしていた業態、あるいは専門人材が不足している中小企業は、十分に対応できないケースも少なくありません。また言葉の問題もあります。中小企業が陥りやすいのは、準備不足であるにもかかわらず、それでも取引先の要求に応じて進出してしまうというケースです。海外では、行けば何とかなるということは通用しません。海外進出を目指す企業のすそ野が広がったことで、リスクの範囲はむしろ拡大しているとも言えるのです。

リスクヘッジに必要なのは情報収集と拠点分散

─では、こうしたリスクにはどのように対処したらいいのでしょうか?

まず、進出時に注意すべきなのは、その国の状況をしっかりと調査して、リスクを把握することです。大手企業であれば、総務や法務など本社の専門家がバックアップをする体制が取れますが、中小企業となると、例えば、現地の工場を統括する技術部門の設立担当者、あるいはオーナー社長自らが孤軍奮闘で進出準備をするケースも見られ、法務や税務などが手薄になりがちです。こうした分野の各種専門家が企業内にいないのであれば、外部の専門家を活用することも考えるべきでしょう。法律の解釈や税務などは、国内でも難しい分野なのですから、信頼できるプロフェッショナルの力を借りることが重要となります。とはいえ、現地で進出手続き等を代行するコンサルティング会社の中には、ごく一部ですが、割高な代金を支払わされるケースもありますので、複数社から見積もりをとって比較するなど、注意が必要です。

これは中国に進出したアパレル関連の中小企業の方に伺ったのですが、その企業は、進出前から予め撤退までを想定して準備をしていたそうです。中国はもともと撤退が難しいと言われており、通常は赤字になってもしばらく操業を続け、かなり事業が厳しくなってから初めて撤退のことを考え、後手に回ってしまう企業が多い中、その企業は進出前にどれだけの資本金を取り崩したら撤退するかを決め、それを合弁企業との契約時に書面に盛り込んだということです。そうしないと、次の投資が難しくなるからです。こうした対応を事前にしておくことで、余裕を持って対処することができるのです。

次に、進出してからについてですが、自然災害時、あるいは突発的な事態が発生した際に一番重要なのは、情報をいかに早く、正確に収集するかということです。一昨年のタイの洪水を例に挙げれば、どのくらいの規模の洪水であり、それによってどんな影響が起こり得るかを把握して、いかに早急に対策を打てるかという時間との勝負になります。事実、早めに保全対策をとった企業では、被害を低減させることができました。こうした情報を収集するためには、日頃からネットワークを作っておくことが必要でしょう。政府関係はもちろん、工業団地内の連絡会といった企業同士の横の連携、さらには現地従業員の持っている情報。これらを迅速に収集できる情報網を構築し、維持していくことが重要になってきます。

海外では、日本人の常識からは想定外のことが起こります。従って、予めリスクを分散しておくという考え方も重要です。製造業であれば、最悪の事態に備え、状況が許すのであれば、生産拠点を分散しておく、あるいは別の場所で代替生産できる手段を確保しておくということも必要になってきます。今日ではサプライチェーンが緻密化し、アジアでは「生産ネットワーク」と呼ばれる国を越えた分業化が進んでいます。そのため、タイの洪水のような大災害時には、その工場自体には何の被害がなくても 部品が納入されずに操業が止まるといった事態が生じ、その影響は世界の反対側の中南米やアフリカの工場にまで波及しました。万が一、1つの調達先が止まっても、代替調達できるようにしておくべきでしょう。

実際、東日本大震災やタイの洪水後、リスク分散の必要性に対する認識が高まり、例えばプリンタ業界では、タイおよびベトナムの生産拠点に加え、フィリピンにも分散して工場を設置、あるいは増設するという、今までにはなかった動きが出てきました。これは同国では労働力が確保しやすいという要因も背景にありますが、これまでは、コスト低減の見地から一極集中生産を行ってきたところを、それを覆してリスク分散を行うという意識が高まっている1つの例でしょう。

海外における労務問題解決の鍵はコミュニケーション

─今後、アジア進出で日本企業が成功するために取り組むべき課題にはどんなものがありますか?

まずは、いかに競争に打ち勝つかです。過去、日本企業は高い技術力で他の外資企業の追随を許していませんでしたが、現在は日本人技術者が、ライバルであるはずの外資企業に入って指導していることから、各国企業とも技術水準が高まり、品質の高い製品を作るようになってきました。その結果、日本企業同士のみならず、地元企業や外資企業との激しい価格競争が起きています。そのため、仕事はあるけれど利益が出ないといった状況も懸念されますので、進出前にはしっかりマーケティングを実施し、競合他社と品質、価格、納期の面で総合的に差別化できるかどうか、見極めを行う必要性が一層高まっています。

また、今後の進出に際して、日本企業が最も苦慮すると思われるのが、人材の確保です。特にビジネスの中核となるマネジメント層が不足しています。海外赴任に積極的な日本人社員が減っていることもあり、コアになる人材を現地で採用できるかどうかが海外事業の成否に決定的に重要な要素となります。しかし、そうした優秀な人材には高い賃金が必要なうえ、企業同士の取り合いとなることから、すぐに他社へ転職してしまうといったことも考えられます。

こうした事態を完全に防ぐことはできませんが、まずはコミュニケーションをしっかりとり、進出先国のスタッフの考え方を理解することが大切です。例えば、タイには台湾の企業が製造業分野で多く進出しているのですが、着任からそのまま20年といった長い間でも、同じ社員が同じ工場を担当し、言葉や習慣まで現地に溶け込んでいるといったケースが見受けられます。現地の人々とのコミュニケーションが円滑に行われ、その分、人材育成もしやすくなっているものと思われます。対して日本企業は多くの場合、何年かの駐在で人が替わってしまうため不利な面もあります。それでも現地スタッフの冠婚葬祭には必ず出席するなど、良好な関係を保とうという姿勢が重要です。現地のスタッフもそういう部分をよく見ています。人とのつながりでカバーできる部分もあるので、まさに人間力が問われるところと言えるでしょう。

─最後に、今後の日本企業のビジネス展開に向けて、JETROからアドバイスをお願いいたします。

繰り返しになりますが、海外へのビジネス進出には多くのリスクや課題が潜んでおり、マーケットが拡大しているからといって、取り敢えず行けば何とかなるという考えは大きな間違いです。かと言って、海外展開の必要性は高まっており、リスクを避けるために進出しないというのでは、大きなビジネスチャンスを逃すことになりかねません。まずは相手の国をきちんと学び、マーケティングを行ってリスクを把握すると同時に、しっかりマネジメントを行って、さらなる発展につなげていただきたいと思っています。そして、何かあればぜひジェトロの相談窓口を遠慮なくご利用ください。

〔取材日:2013年1月18日〕

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上記内容は オフィスジャパン誌 2013年春季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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