不動産証券化の普及、ESG投資の促進で、優良な不動産ストック形成を後押しする。
国土交通省 不動産・建設経済局 不動産市場整備課 不動産投資推進室 室長 本田 雄治氏
低未利用地の有効活用を、資金調達面から支える不動産証券化
国土交通省では、不動産市場のさらなる活性化を図るため、不動産投資、中でも不動産証券化の普及促進に取り組んでいます。不動産証券化とは、事業者が投資方針や投資対象不動産を示して複数の投資家から出資を募り、不動産を取得した上で、第三者に賃貸・売却することで得られる収入を原資に投資家へ配当を行う仕組みです。証券化の対象になるのは収益が出る物件、すなわち利用者がいる物件。不動産証券化が広がり、物件の開発・改修の資金調達が行いやすくなれば、優良な物件が増え、事業用不動産マーケットのさらなる活性化につながると考えています。
低未利用地や空き家の有効活用、老朽化不動産の更新に関しては、すでに法制度や予算を活用して取り組んできましたが、それを資金調達の面から支えようというのが、我々が不動産証券化の普及に取り組む理由です。利用者がおらず、収益性の低い不動産であっても、所有者が変わることで低未利用を脱する不動産もあります。何らかの事情で動かない低未利用地を、証券化という手法で改善できるケースもあると考えています。
2023年度末で、投資法人制度を活用した不動産投資信託(REIT)や、地域物件の開発・改修に適した不動産特定共同事業(不特事業)により運用されている不動産は約31兆円。政府は2022年に新たな目標を立てていて、2030年頃までに約40兆円を目指しています。
過去10年でアセットの多様化が進む、最近はヘルスケアREITの普及に注力
REITは、2001年に最初の銘柄が上場して以来、20年以上にわたって着実に資産総額を伸ばしてきました。運用する不動産は、2000年代はオフィス、住宅、商業施設が大半でしたが、2010年代にはホテル/旅館、物流施設、ヘルスケア施設まで、多様なアセットに広がっています。
ヘルスケア施設を例にとると、一般的に施設運営と保有が一体化していましたが、病院やサービス付き高齢者向け住宅でREITが取得する事例が出ています。これは過去10年間、ホテルや物流施設が辿ってきた道でもあります。10年前はホテルや物流施設がREITに組み入れられることは稀でしたが、それが大きく伸びたのは、時代背景に加えて、「このアセットでも証券化ができる」と思わせる事例が出てきたことが大きいと思います。
ヘルスケア施設においても事例の積み上げが重要であり、2014年、ヘルスケアREITに関するガイドラインを策定しました。ヘルスケア施設は、不動産の評価に運営状況が密接に関わるため、証券化にあたって資産運用会社側が整備すべき組織体制や留意点について明確なガイドラインが必要であったからです。策定から10年が経ち、その間に出てきた事例を追補して、より使いやすいガイドラインに改訂したのが昨年3月のことです。ちょうど政府が「2030年を目途に40兆円」という成長目標を設定した後でもあり、目標達成に向けた取り組みの一環として改訂を行いました。
我が国の不動産投資市場の概要
●出所:国土交通省
関心が高まるESG投資、情報開示のガイダンスを策定
気候変動対策への関心が高まる中、投資の世界で存在感を増しているのがESG投資です。関連するサステナブル投資の残高は、2022年時点で500兆円を超え、特に不動産分野においては2016年比で30倍超に伸びていると言われています。国としてもESGの観点は重要だと考え、不動産ESG投資促進に取り組んでいます。
政策としての捉え方にはいくつかあると考えますが、一つには、気候変動などのような個別の社会課題への対応に着目した見方です。これは我々も公の立場で推進している政策ですので、これらの要素を重視して投資をすること自体、国の他の政策と馴染みが深いと言えます。もう一つは、投資の世界の実情として、海外投資家を中心とする機関投資家は、利回りだけでなくESGの要素も求める傾向が強くなっていることです。日本の不動産投資市場をそうした実情にも対応できるようなものにしていこうという考え方です。
国としては、ガイダンスの策定による情報開示の標準化の促進に取り組んできました。投資家は、投資物件がどのような性質のものなのか、情報開示を強く求めてきます。そこで大事なのは、物件間で比較検討できるための情報の標準化です。投資家が知りたい情報が開示されて、投資家と事業者のマッチングが成立しやすくなるよう、適切な情報開示のガイダンスを提示するのは国が果たせる役割だと考えています。気候変動に関連した情報開示については、2021年、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を踏まえた「不動産分野TCFD対応ガイダンス」を国内の不動産分野向けに公表しました。また、気候変動以外の社会課題にも対応する側面から、不動産がその地域の環境保全も含めた課題解決にどのような役割を果たすのかに着目した「『社会的インパクト不動産』の実践ガイダンス」を2023年3月に公表しました。
不動産ESGと上場REITは馴染みが深く、実際、不動産業界のサスティナビリティ評価を行うGRESBに、資産総額ベースで上場REITの99%が参加しています。つまり、ESGの要素を上場REITの運営に取り入れるのが一般的になっているのです。最近、ESGやSDGsの取り組み自体を投資家や顧客への訴求ポイントとする動きは、大手企業を中心に普及している印象です。一方、取り組みがこれからという企業がまだ多いところでもあり、国交省としても、ガイダンスを作るだけでなく、その活用を促進すべく、今年3月には対面・オンラインのハイブリッドセミナーも開催しました。不動産ESG投資の情報開示がより広く浸透するよう、引き続き取り組んでいきます。
日本のサステナブル投資残高
●出所:日本サステナブル投資白書2022(NPO法人日本サステナブル投資フォーラム)及び同法人の提供データ
不動産投資のDX推進が今後の課題、投資家保護の徹底が求められる
不動産投資の裾野拡大に向けては、デジタル分野を活用した不動産投資に対応していく必要があると考えています。上場REITへの投資の場合、すでに証券会社のアプリで行えますが、他のスキームにおいてはそれが必ずしも一般的ではありません。とはいえ、信託受益権化された不動産の売買ではセキュリティトークンの活用も増えてきていますし、不特事業においてはオンラインでの契約も可能になっています。そうした環境にしっかりと慣れていく必要があります。
それに伴い、投資家保護もデジタルの環境に対応させる必要があり、法整備を進めてきましたが、投資家がより安心して投資できる環境を目指して、より一層投資家保護を徹底していきたいと考えています。


