先にも述べたとおり、TPPにより輸出が2.6兆円増、輸入2.9兆円増となり、合計5.5兆円分の物流増が見込まれている。TPPによりこれだけの物流量が増えた時、どれだけの倉庫が新たに必要になるのだろうか。
過去10年のデータをさかのぼってみると、全国の倉庫面積の増え方は輸出・輸入の増え方よりもやや緩やかに推移しており、統計的な分析でも直接的な関連性は低いとの結果となっている。ただ、やや強引ではあるものの「輸出・輸入が増えると倉庫面積は増加する可能性がある」との予測から、政府試算のとおり関税の撤廃により輸出入が5.5兆円増加すると仮定した場合の倉庫面積の増え方を、CBREリサーチが推計した2014年度の全国の倉庫面積1億4200万坪を用いて試算すると、460万坪の増加、既存の倉庫面積に対して3.2%の増加が見込まれるという結果が示された(*倉庫面積には政府の備蓄倉庫、JAなどの倉庫、第一次産業従事者の倉庫なども含まれる。建壊分は削除されていない)。
もう1つ、最後にTPPの影響からさらに視点を広げ、安倍内閣の掲げる「一億総活躍プラン」に基づいたGDPの成長目標からも、倉庫ニーズの高まりを試算してみたい。同プランは、2014年の我が国のGDP491兆円を、2020年までに600兆円にまで引き上げることを目指すというもの。上昇分110兆円の内訳は、〔図表7〕のとおりTPPによる効果に加え、賃上げに伴う消費や企業の設備投資などが含まれている。
CBREコンサルティング部の調査によると、〔図表8〕のグラフで示されたとおり、GDPの変動率と倉庫の着工面積には非常に高い相関関係があることがわかる。GDPを491兆円から600兆円に拡大するためには2015年から2020年の6年間、毎年約3.4%の成長率が必要となる。この数字を単回帰分析より算出した式に当てはめると、1年間に約1050万㎡(約320万坪)、6年間では実に約6300万㎡(約1920万坪)の倉庫着工量が必要となる。
ちなみに日本経済研究センターの日本経済中期予測に基づいた標準的なシナリオで算出した数値と比較すると、その差は6年間で約1800万㎡(約540万坪)である。つまり、一億総活躍プランが目標どおりの成果を上げれば、これだけの床面積が不足する可能性があるということだ。このスケール感を捉えるために、首都圏の直近の大型マルチテナント型物流施設の新規供給面積を記しておくと、2013年が23万坪、2014年が20万坪、2015年が29万坪である。直接比較できる数値ではないにしろ、この倉庫着工面積予測の大きさがおわかりいただけるのではないだろうか。
政府が掲げるプランが計画どおり進むかどうか、かなりの困難が予想されるのは確かだが、目指しているのは事実。ここまでではないにしても、倉庫に対するニーズが大幅に拡大することは間違いないだろう。早急かつ確実な日本経済の回復に期待したいところである。