インダストリアル営業本部
企画推進部 企画推進グループ
スペシャリスト 村田 恭平
これまで、物流および物流施設における荷主の主役は、自動車や家電、電機メーカーなどの輸出型産業が担ってきました。特に07~08年にかけて新設された不動産投資家による大型物流施設においては、その傾向が顕著に表れていたといえるでしょう。しかし、ここ最近の景気低迷により、これらの産業が低迷期に入り、それに伴って各社の物流子会社はもちろん、同業界に特化して売上を伸ばしてきた物流業者も苦戦。特に09年上期における売り上げは軒並み減退を余儀なくされ、なかには対前年比2桁割れの企業も出てきています。
そして今日、これら輸出型産業に代わって物流ビジネスの荷主として台頭してきたのが「衣」「食」「住」関連の内需型産業。特に高級商材ではなく、廉価な輸入食品・雑貨・衣料品を扱う企業が牽引役となっています。これらの産業は生活に密着したものであり、景気の動向に左右されにくいという特徴があります。
これまで衣・食・住関連産業は、不動産投資家が建設する最新設備を完備した倉庫の荷主になり得ていませんでした。なぜなら、これらの産業は個人消費を対象としているため、賃料負担能力はそれほど高いとはいえません。一方、不動産投資家は、巨大かつ高機能な倉庫を開発し、メーカー系の価格の高い荷を入れて、高い賃料を払ってもらいたいと思っていました。ここにミスマッチがあったわけです。しかし先に述べたとおり、昨今、輸出型産業企業の賃料負担能力が低下してきたことから、投資家が賃貸条件を柔軟に対応し、積極的に衣食住系の企業を取り込むようになってきているのです。
また、こうした内需型産業は従来、消費地に近いところに倉庫を設けるのが一般的でした。しかし近年、以前と比べて立地へのこだわりは薄れてきているといえるでしょう。例えば、都心部に倉庫を持っていた旧来型のアパレル企業など、一時、都心部でマンション建設が活発になった際、そこを売却して立地的に都心から離れたところに物流施設を設ける動きが数多く見受けられました。これを可能にしたのが高速道路や一般主要道の整備など、以前と比べて都心へのアクセスが格段に便利になったことが挙げられます。また、通販関連の会社でもこうした動きは顕著で、即日配送を"売り"にしている会社は現在も消費地に近いところに施設を調達していますが、それ以外の会社は郊外に移転するケースが増えています。つまり企業が、それぞれの業態にあったベストなポジションを選択し始めているわけです。
加えて言えば、こうした内需型産業は、仕分けや値付けなどの細かい作業が多く、そのため100人規模のパートを確保・定着させることが事業継続に不可欠な要素です。その点からも、設備が新しくキレイな新築の物流センターへの潜在的なニーズを内在していたといえます。
施設選択の根底に、賃料が大きなウエイトを占めているのは事実ですが、これまでハイエンド施設に関係してこなかった企業群や業態群が、大型施設、最新施設も視野に入れて物件選定を行うようになったことは、物流マーケットの新潮流として特筆すべき点といえるでしょう。
コスト削減目的の郊外移転が活発化するアパレル業界
ここまでは、内需型産業の総括的な動向をご説明してきました。ここからは「衣」「食」「住」それぞれの業界について検証してみましょう。
アパレル
景気の低迷により、売れ筋が高級品から廉価品にシフトしたことに連動して、物流施設ニーズも大きく変化しています。かつて、高級品を扱う旧来型のメーカーは、都心に自前の倉庫を確保しているケースが多く見られました。しかし、こうした商品の売れ行きが鈍ってきたことから、賃料が安い郊外に移転する、あるいは3PL事業者にアウトソーシングするケースが増えています。つまり、これまでは消費地に近い立地で自ら物流を手がけていたものが、今日では営業部隊は都心に置きつつ倉庫は郊外に移転、もしくは物流自体を外注するという傾向になっています。
また、カジュアル系メーカーにも郊外移転の傾向は見られます。ユニクロやABCマートなどは以前から物流業務をアウトソーシングしていましたが、こうした企業から委託された3PL事業者が積極的に施設探しをしています。同様に、近年売れ行きが好調な企業には元々都心に倉庫を持っていないケースも多く、郊外立地の物流施設へのニーズが高まってきています。
言い換えれば、郊外でも対応できるほど都心へのアクセスが良くなったともいえますし、一方では、それだけコスト面での厳しさが如実になってきたともいえるでしょう。
このため、施設運営サイドや3PLサイドも、カジュアル系メーカーに対して積極的に営業を勧めているようです。
スポーツ系専門店
少子高齢化の影響で、今後、継続的に売上の衰退が予想されるスポーツ系の専門店では、物流施設を刷新し、コスト削減を目的とした新拠点建設が目立っています。また、ゼットのように他社と共同で「ジャスプロ」という共同配送会社を設立するような動きもでてきました。スポーツ用品メーカーには特定用具専門のメーカーが多くあります。
一方、その配送先である用品店は限られているため、メーカーが個別で配送するより、まとまっていくつもの商品を一括で配送できる仕組みにすることで、効率化とコスト削減が同時にできるという大きなメリットがあります。
デパート
近年のデパートにおける物流は、売上の優劣によりその戦略が明確になっています。売上が上昇しているデパートは、拡張に対応できるような施設構成を目指しています。一方、何割かの企業は売上ダウンを見越してコスト削減を実現するための拠点の再編を進めている状況です。 近年の合併や統合により、物流子会社の売却や、それに伴うアウトソーシングを進めているところもあります。
小売は、メーカーと比べて新陳代謝が激しく、主役も百貨店からスーパーやコンビニへと交代しています。そのため、全体としての荷量は同等でも、プレーヤーの顔ぶれが替わるとともに、施設も変化しています。特にアパレルは、3PL事業者に委託したほうがコストダウンしやすく、しかも冷蔵設備が必要な食品のように施設に多額な設備投資を必要としないため、一括で委託しやすいという特徴があるといえるでしょう。
地価下落を起爆剤に専用センター建設を進める食品業界
スーパーマーケット
スーパー業界で現在、売上を伸ばしているのは中堅以上の規模を持つ企業ですが、近年では値引き競争が激しく、客数が増えても思うように売上が伸びない状態が続いています。とはいえ、在庫を絶やすことはビジネスチャンスの喪失に直結するため、品数の確保とコスト削減の双方を見据えた拠点の見直しが進んでいます。
食品に関して特徴的なのは冷蔵設備が不可欠であることです。しかし、冷蔵設備を設置すると、上部階に結露が発生する、必要な電気容量が大きい、さらには集積、配送のトラックの時間が集中するので駐車スペースを大きく確保する必要があるといった課題があります。
そのため、不動産投資家が建設した既存の施設を、そのまま利用することができないケースが多いのです。そこで、スーパー業界では、地価が下がっている今がチャンスと、自前、あるいは投資家や物流業者と共同で、専用センターを建設する動きが目立ってきています。
その他、目立つ動きとしては、消費者に近いことから湾岸部の冷蔵倉庫に対する需要が増えている、コスト削減のために首都圏(千葉)でも、ビールメーカーの共同配送が始まったことなどが挙げられます。
勝ち組・負け組の明暗くっきり 今後の動向に注目の生活関連業界
ホームセンター
ホームセンターは、各社ごとに自社配送かアウトソーシングか、戦略が明確に分かれている業界です。近年では一部の企業に売上が集中する傾向にあり、その中でニトリのように自社物流志向が強い企業は、九州で物流用地を購入するなど積極的な動きを見せています。一方、2年ほど前まで積極的だった高級家具を扱う荷主の動きはほとんど見られなくなっています。
通販
通販業界もまた明暗がはっきり分かれています。個人を対象とした通販、なかでもアマゾンやジャパネットたかたは、売り上げ拡大により積極的に物流施設を展開しています。一方、企業向けの事務系中間資材や消費財を扱う企業は厳しい状況です。もともと通販は業界的に新しく、当初から先進的な物流システムを導入して効率化を進めていたビジネスです。しかも、主だった企業はすでに自社センターを整備したばかりなので、施設移転によりコストダウンするのは難しいのでしょう。そのため、対象顧客や取扱商品で結果が大きく分かれることになっています。
また、アマゾンのように、自社のノウハウを利用して他社の通販ビジネスを受託し、自社の物流ラインにのせて配送する子会社を設立するなど、3PL事業化を目指す企業も出てきています。
医薬品
医薬品における物流の主役は、メーカーではなく卸業界です。卸は5~6年前から統廃合が活発で、現在ではおおむね4グループに集約されました。そのため、各社が持っていた小拠点を統合する大拠点化を進めているのが現在の特徴です。
また、ジェネリック医薬品が成長していること、さらには、昨今のインフルエンザの爆発的な流行でマスクの在庫が欠かせないため、保管スペースが必要との見方から、こうした業界に対して、3PL事業者が積極的に攻勢をかけているという話もよく聞かれます。
日用雑貨
雑貨類も卸が主役ですが、こちらも医薬品同様に業界再編が終わり、小拠点の統廃合はあと2~3年で完了すると思われます。現在は過渡期であるため、古い拠点の閉鎖費用や大拠点立ち上げによるコスト増や移転時のロスの発生などで厳しい状況にありましたが、統廃合に伴う各種のシステム変更も終え、その後は業績アップが期待できるのではないでしょうか。