かつての「超高層ビル」や「インテリジェントビル」、また「近・新・大」など時代時代のニーズに合わせ、これまでオフィスビルのバリューが語られてきた。さらに、OAフロアや電気容量といったITスペック、天井高や照明、空調といった居住性、耐震性やBCP対応など、より機能的で快適、安全な執務空間を構築する上で考慮すべき要素は数々存在する。企業が移転する理由は様々だが、入居時の判断材料として、オフィスビルの機能・設備・付加価値をどう判断すればいいのか。また、現代のオフィスビルでは、どのようなニーズに対応すべくどのような施策が講じられているのか。昨今注目されるオフィスビルや執務空間に求められる要素・サービス、その見極め方を、デベロッパーや専門家、学識者に訊く。
今オフィスビルに求められているものとは
弊誌では、CBREがプロジェクトマネジメントや仲介を手がけた移転の経緯や背景、実践事例を「プロジェクトケーススタディ」という企画で連載している。これまで30数社の企業にご登場いただいているが、どのケースにおいても必ず事業戦略が語られ、「今後、当社はこうありたい」というビジョンが示されている。これは決して「取材だから」と無理やり語られたものではなく、企業にとって一大プロジェクトとなるオフィス移転において、それをチャンスと捉え実行するという極めて自然な経営スタンスの表れである。上記、各企業記事の見出しをご覧いただくだけでも、その思い入れが伝わるのではないだろうか。
では、企業は移転に何を求めるのか。営業フットワークが向上し売り上げがアップする、快適な執務空間でデスクワークの生産性が向上する、来訪客の増加で企業ブランディングが高まる、ペーパーレスの導入でスペース効率が高まる、採用活動が有利になり優秀な人材が集まる、社内コミュニケーションが活発化し新たなアイデアが生まれる、最新IT機器の導入で業務効率が高まる、ファシリティコストが削減され経営が安定する、BCP対応の構築により災害時の事業継続性を確立する等々、いくつものニーズが考えられる。一方で、昨今のオフィスマーケットは一時の低迷期を脱し、各所で需給バランスの逼迫や賃料上昇が囁かれている。移転実施は難しさを増し、コスト増も免れない。そして、労力とコストをかけた結果得られるリターンには、より高い要求が課せられるようになるに違いない。
要求があるということは、現状に満足せず変革を求めているということ。「移転により企業は変わるのか?」という問いへの答えは、まぎれもなくYESだ。ただしそこには、明確な戦略と、それを可能たらしめる器を選ぶ選択眼と、単に「働く場所をつくる」だけにとどまらない実行力が不可欠となる。次ページ以降、デベロッパーやプロバイダーが提供する新たなビジネス空間の形、ニーズを具現化する設備群、空間の価値を明確化する認証制度等を解説する。必ずや、求めるものを得るための移転成功の一助になるに違いない。