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BCP発動の実例と、今後高めるべき"事業継続能力"

株式会社富士通総研
BCM事業部長 伊藤 毅

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想定外の脅威だからBCPは機能しなかったのか?

今回の震災は「想定外の脅威だった」とよく言われます。想定していた以上の大津波と原発事故を引き起こした東日本大震災は、マグニチュード9.0で史上最大。確かに、これまで経験したことのない脅威でした。

製造業の被害としては、とにかく津波の被害が取り上げられていますが、実は地震による被害も大きいものでした。製造業の工場内部はデリケートに組み立てられていますから、揺れによる被害が大きかったのも当然のことです。加えて原発事故による放射性物質の拡散による被害、電力供給不足による企業活動の制限が続き、完全に企業活動の復旧の目途が立ったとは言えない現状です。ただ、これだけのことをあらかじめ想定しておくのは、むしろあり得ないことです

このような状況下による企業の被害は、大きく分けて2つあります。ストックの被害(直接被害)と、フローの被害(間接被害)です。ストックの被害とは、建物や施設がダメージを受けたり、情報手段が断たれてしまうなど物理的なダメージのことです。これに対しては修復修繕が可能ですし、損害保険に加入していれば保険で補てんされる類の被害です。

問題はフローの被害です。これは、物理的ダメージにより供給能力が低下したことで生じる機会損失のことです。機会損失の大きさを計算することは難しいのですが、実はこれが非常に大きいのです。また、自社の供給能力の低下によるものだけでなく、サプライヤーの供給停止や、さらには電力供給不足を受けた節電対策による機会損失もあるでしょう。加えて、需要側の意識の問題も発生します。被災地向けのビジネスであれば需要が減るのは当然ですが、今は被災地以外の地域や海外向けのビジネスにも影響が生じています。日本が抱える原発や電力供給不足のリスクが、供給不能の状態を長引かせるのではないかという風評を生み、これによって需要が日本から海外へ流出する現象も起きています。こうしたフローの被害がいつまで続くのかは不透明で、それだけに被害はさらに拡大していく恐れがあります。

こうした脅威に対して、実際にどれくらいの企業がBCPを策定していたのでしょうか。震災前(2010年3月)の内閣府の調査によると、「策定済」もしくは「策定中」と答えたのは大企業で58.4%、中堅企業で27.2%でした。ところが震災後、ある調査会社が同様の調査を行ったところ、この数字はおよそ半分に減っていました。BCPを策定していた企業が、震災後は「実はBCPを策定していなかった」と言い始めたのです。つまり、「BCPは策定していたが、想定外の津波や原発事故が起きたために、BCPは役に立たなかった」というわけです。

もしそうなら、BCPは、今回の震災で起きたようなあらゆる事象を想定し、シナリオを立て、それに対して必要な方策を講じなければならないのでしょうか。それがBCPの本質として正解なのでしょうか。私はそうは思いません。なぜなら、すべての事象を想定することは不可能であり、意味がないからです。「想定外の事象をすべて想定内とし、BCPを大幅に見直さなければならない」という考え方を、私は「3.11症候群」と呼んでいます。

ここで改めて、BCPの定義を考えてみる必要があります。BCPの定義が内閣府のガイドラインで明記されなかったことがそもそもの誤解の原因ですが、BCPの正しい定義は、「大規模地震や大規模自然災害など不測の事態が発生したときに、重要な事業が継続できるための計画を立てること」です。

これが仮に、「大規模地震や大規模自然災害などが発生したときに重要な事業が継続できるための計画」と定義されていたとしたらどうでしょうか。地震が起きれば建物や施設が壊れるでしょうから、それに対してどういう行動を取るべきかを考えることになります。「首都直下型地震に対するBCP」などはまさにその1例で、これは「首都直下型地震はM7.3」という前提に立ち、さらには「インフラやネットワークは1週間程度で復旧する」という前提に立っています。このような、ある特定の事象に対する対応計画はリスク対策であり、BCPではありません。

BCPとは、先ほどの定義に戻ると、「大規模地震や大規模自然災害など不測の事態が発生したときに、重要な事業が継続できるための計画を立てること」です。大規模地震や大規模自然災害が「不測の事態」であるという前提に立っています。不測の事態とは「想定外」であり、想定外の事象に対する計画がBCPなのです。ですから、「今回の地震が想定外だったからBCPが役に立たなかった」という考え方には大きな矛盾があります。

BCPとは、インフラやネットワークが崩壊して使えない、という前提での事業継続計画を策定することです。ではどうすればいいのかというと、ひとつのキーワードとして「代替手段」が挙げられます。工場が生産機能を停止した時、代替をどうするか。もちろん、これについて誰も考えてこなかったわけではありませんが、これまでは「代替の生産設備や供給センターをつくるのはコストがかかるから無理だ」という議論に終始してしまい、代替について真剣に議論されることはありませんでした。その代わり、現場復旧を優先させる、つまり建物や設備の耐震・耐震強化に取り組んできたのがこれまでのBCPの傾向でした。

確かに代替手段にはコストがかかります。ただ、少し発想を切り替えればコストをかけずに実現可能であることを、これから富士通の事例でご紹介したいと思います。

12日後に出荷再開した富士通パソコン事業の対応

富士通は、東日本大震災で50以上の拠点に被害を受けました。中でも我々の基幹産業である半導体、携帯電話、パソコンなどの工場が大きな被害を受け、生産停止に追い込まれました。しかし幸いなことに、生産停止してから2〜3週間の間に、順次、生産を開始することができました。今日はその中でも、パソコンのケースをお話ししたいと思います。

富士通のパソコン製造拠点は、全国で3ヵ所あります。ひとつが富士通アイソテック(福島県伊達市)で、ここで日産1万2000台のデスクトップパソコンを製造しています。もうひとつが島根富士通(島根県)で、ここではノートパソコンを製造。この2つをコントロールするのが、川崎工場(神奈川県川崎市)のパーソナルビジネス本部です。このうち、被害を受けたのは富士通アイソテックの工場で、ケーブルや設備が壊れたり、完成品が棚から崩れ落ちたりと散々な状況でした。

とはいえ、どんな製造ラインでも大体は2〜3週間あれば復旧できるものです。遅れるのは、突出して復旧に時間のかかるボトルネックがある場合。例えばクリーンルームが壊れてしまうと、部屋の中をクリーンな状態に戻すのに時間がかかりますから、その他の部分が復旧していても、ライン全体が完全に復旧するには半年や1年かかってしまうかもしれません。そうならないためには、自分たちの工場や施設のボトルネックとなるリソースは何かを把握し、それに対する対策を集中的に講じておくことが重要です。富士通アイソテックの場合は、重大なボトルネックになるようなリソースはなく、1ヵ月ほどで復旧することができました。

復旧作業と並行して行ったのが、島根富士通への生産切り替えです。そのプロセスをお話しすると、まず地震発生直後に、地震対策本部を3つ立ち上げました。ひとつは被災現場の福島です。現地では甚大な被害のため工場内に入ることができず、社長宅に設置しました。あとの2つは、川崎本部と島根です。島根富士通は被災現場ではありませんが、ここにも対策本部を設置しました。川崎本部から島根富士通に対して代替生産のための準備の指示が出たのが、震災12時間後です。その結果、震災から12日後の3月23日には、島根工場で代替製造・出荷を開始することができました。これはBCPで策定した通りの対応でした。

ここで誤解を解いておきたいのは、富士通では、ある工場が被害を受けた時に、別の工場で代替生産ができるよう常に準備しているわけではないということです。ノートパソコンとデスクトップパソコンでは、製造ラインも生産管理システムも全く異なりますから、代替生産のための設備投資をすれば莫大なコストがかかります。そのような経営判断が下されるはずもありません。では、BCPで何を決めていたかというと、代替生産するにあたって使用できる設備はどれか、部材をどう調達するのか、データ入力の人材をどう確保するのかなどを検討し、実施可能な代替戦略を定めていたのです。その結果、福島での製造停止から12日後に、島根での出荷開始に至ったのです。

ここで、初動に関する興味深いデータを紹介しましょう。今回は被災から12時間後に代替生産の決断をし、12日後に出荷開始しました。仮に最初の決断が36時間後だったとしたら、出荷開始までにどれくらいかかったかをシミュレーションしてみたところ、なんと30日後でした(下図参照)。初動における1時間の遅れは、復旧における1日の遅れにつながります。これはどの企業も直面した問題だと思いますが、初動が遅れるほど燃料や物流のための車両の確保が難しくなるからです。1分1秒でも初動を早めることが、その後の復旧にかかる時間を大きく左右します。

リスクに強い拠点づくり:もしBCPがなかったら?

もう1点、今震災では取引先も甚大な被害を受けましたが、これも事業継続において深刻な問題でした。あれだけの被害を受けると電話もメールもつながらず、取引先の被災状況の確認もままなりません。特に2次下請け、3次下請けとサプライチェーンが何層にも連鎖する業界では、部品調達に大混乱が生じたのは周知の通りです。

そこでの反省から、不測の事態でも調達を継続させるには、サプライチェーンの見える化が必要だと主張する向きもありますが、ナンセンスです。何層にも続くサプライチェーンの末端まで把握するのは容易ではありませんし、サプライチェーンのどこかで問題が発生したとしても、その企業とは直接契約関係にないため、具体的な解決に結びつかないからです。

それよりも、我々が実践しているのは、直接取引している企業と1対1でBCP戦略の見直しを行い、取引先の事業継続能力を向上させることです。具体的には、我々が自社の事業継続能力を評価するのと同じ基準を用いて1次サプライヤーを評価し、我々のBCPと同じ考え方で事業継続計画を策定してもらっています。それと同じやり方で、1次サプライヤーが2次サプライヤーを、2次サプライヤーが3次サプライヤーを評価、事業継続計画を策定してもらうようにしています。こうした共通の指標を持ち、定期的にコミュニケーションを取りながら、取引先の事業継続能力を高めていくことがサプライチェーン対策では重要だと考えます。

では、自分たちがサプライヤーの立場の場合は何に注意すべきなのでしょうか。今回の震災で言えば、顧客側から見た場合、テレビでは火災や津波など甚大な被害の様子がひっきりなしに報道される一方で、取引先とは電話もメールもつながらないという状況が生まれました。そうなると顧客は「取引は無理だろう」と考え、代替先を探したり商品設計を変更することで事態を乗り切ろうとします。サプライヤー側が復旧した頃には、商売はなくなっています。そうならないためには、いかに迅速に自社の被害状況と復旧見込みを顧客に伝えられるかが、事業継続における生死の分かれ目となります。

富士通のパソコン事業の復旧プロセスに関する評価はこれからですが、出荷再開を早めたポイントを挙げるとすれば「24時間以内の迅速な初動と意思決定」「復旧のみに頼らない代替戦略オプションの策定」「現場主体のBCP策定と訓練の徹底」「重要取引先に対する事業継続戦略の指導と支援強化」だと言えるでしょう。

BCP策定に必要な視点と取り組み

リスクに強い拠点づくり:事業継続能力の3要素・BCP改善に必要な取り組み

これからBCPについて考えるときに、何に気をつけるべきなのでしょうか。ひとつ強調しておきたいのは、BCPをどうやって作るのか、どんな文章で書くのかなど、形式にこだわりすぎてはいけないということです。現在BCP導入を考えている企業の中には、形式にこだわる傾向があまりにも強すぎます。BCPには決まったフォーマットも目次構成もありません。BCP策定で重要なことは、「何を目的にするか」を明確にすることです。この場合、目的とは「不測の事態に直面したときに事業継続できる能力を養うこと」であり、それを実現する要素のひとつがBCPと呼ばれる計画なのです。

我々が考える「事業継続能力」とは、「ハード」「ソフト」「スキル」の3つの要素から成り立っています。「ハード」とは、建物や設備の耐震・免震対策や、データのバックアップなど予防や減災のための事前対策。「ソフト」とは、体制や役割分担、行動基準や手順など危機に直面したときに取るべき行動計画です。この2つが狭義でのBCPだと言えるでしょう。ただし、非常時にこれらの備えが役立つ確率は良くて数パーセント。そこで必要になるのが「スキル」です。スキルとは、危機的状況を判断し、その状況に最適化できる力、つまり柔軟に行動できる力です。従って、ハード、ソフト、スキルの3つをバランスよく成長させることが、事業継続能力を高めることになるのです。

そのために必要な取り組みとして、いくつかのポイントを挙げていきます。まずハード面では、建物や通信手段、サプライチェーンなどにおける現状の脆弱性を診断し、その対策を検討します。耐震や津波対策、災害時の通信手段の確保、データのバックアップなど最低限取り組むべきことはたくさんあります。

次のソフト面では、初動手順の策定が非常に重要です。一刻も早い初動対応の重要性についてはすでに述べましたが、今震災でも各所で初動対応の遅さが目立ちました。震災後、50社ほどの企業に話をうかがったなかで、震災当日(3月11日)に災害対策本部を立ち上げた企業は2割程度、4割は翌月曜日(3月14日)に立ち上げ、残りは立ち上げていませんでした。また、多くの企業で初動手順が定められていなかったために、震災当日は大混乱となりました。特に帰宅困難者に対しては、建物から閉め出したところもあれば、建物内に留めたところもあり、企業によって異なる対応が大混乱を招きました。

初動手順として決めておくことは、本部の設置場所、役割分担と指揮系統、行動基準及び手順など、災害当日から2日目ぐらいまでに取るべき行動です。その際、今回のように本社機能を維持でき、本社に対策本部を設置できる場合と、本社機能が完全に停止した場合を想定する必要があります。さらに、それぞれのパターンについて、災害が平日に発生した場合と、休日に発生した場合も必要でしょう。3日目以降は状況がどんどん変化していきますから、あえて手順を決めずに、柔軟に対応していくことが求められます。

こうした初動手順を策定する基となるのが、実体験における行動記録です。つまり、今回のような震災において行動を記録し、振り返ることが、BCPの改善や最適化には大切なのです。しかし、実際に行動記録をつけていた企業はほとんどなかったのではないでしょうか。災害対策本部の議事録が残っていたとしても、それは行動記録ではありません。行動記録とは、どの時点でどのような状況になり、それがどの時点で災害対策本部に伝わり、意思決定して行動指示を出すまでにどれくらいの時間がかかったのか、といった行動プロセスを記録しておくことです。このプロセスを分析しない限り、震災後の対応のどこに問題があったのか、どこを改善すべきなのかが見えてきません。ですから、今回の震災で行動記録を取っていない場合は、記憶の新しい今のうちに、行動プロセスを洗い出しておくべきです。

3つ目のスキル面で重要なことは、シミュレーション訓練です。訓練というと、ある特定の状況下でどう対応すべきかを教え込ませるものだと誤解されやすいのですが、BCPとは想定外の事象が発生したときの行動計画ですから、想定外の事象が起きたときに適切に行動できるための訓練でなければなりません。この訓練のポイントは、実際に発生した状況を追体験することで、そこで何を考えるべきか、どう行動すべきかのプロセスを経験として習得させることです。例えば、「避難してきた人が押し寄せてきている」「駅には人があふれ返っている」といった震災当日と同じシナリオを追体験させることによって、そこで取るべき行動プロセスを実体験することが大事だと言えます。

最後に申し上げておきたいのは、災害時に柔軟に対応できるスキルは、何も非常時のみに必要な能力ではありません。現在はビジネス環境そのものが常に危機的状況です。事業継続におけるスキルは、そのまま「様々なビジネス環境に組織を最適化する能力」に他なりません。

これまでのBCPは、建物や設備の耐震・免震などハード面の対策が中心だったため、「BCPはお金がかかる」という意識からBCPに消極的な企業が多くありました。今回の震災を経験して、「やはりお金をかけてでも対策をしておかなければ」と危機感を覚えた企業は多いと思います。しかし、それも時間が経てば意識が薄れ、「やはりそんなことにお金をかけていられない」となるに違いありません。

でも、こう考えてみてください。事業継続に必要なスキルは、企業にとって重要な人材育成プログラムなのです。BCPのスキルを鍛えることは、すなわち人や組織を強くすること、常に変化するビジネス環境に対応できる強い組織をつくることのはずです。そういう観点でBCPに取り組んでいただきたいと思います。

(2011年7月13日CBRE主催「BCPとCRE」セミナーより、伊藤氏「これからの事業継続マネジメント〜震災を踏まえた実践的BCMへ〜」講演を要約)

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上記内容は オフィスジャパン誌 2011年秋季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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