市場が変わる、ビジネスが変わる オフィスマーケット未来予測
シービーアールイー リサーチ
エグゼクティブディレクター
大久保 寛
これまで好調を維持してきたものの、転調の兆しも見え隠れする昨今の日本経済。一方で、労働時間の短縮と、それに伴う生産性の向上を目指す「働き方改革」が叫ばれ、企業を取り巻く環境には、明確な解決策が見えないままだ。ビジネスの“器”を提供するビルデベロッパーにとって、そして、そこで働くワーカーにとって、これからのオフィスビルやオフィス空間はどうなるのか、そしてどうあるべきか。シービーアールイー、リサーチ部門のエグゼクティブディレクターである大久保寛が、その将来像を展望する。
オフィスマーケットと昨今の経済環境
オフィスのマーケット動向やテナントニーズにもっとも大きな影響を及ぼす国内経済。まずは、これまでの経済環境の総括と、気になる今後について聞いてみる。
― 不動産マーケットの変動に影響が大きい、経済環境の動向についてうかがいます。
大久保●昨年までの国内経済は堅調に推移しており、 GDPは2016年Q1から2017年Q4にかけて、8四半期連続でプラス成長を記録しました。これだけ長期にわたってプラス成長が続いたのは、1999年Q2から2001年Q1までの8期連続以来、実に16年ぶりであり、上場企業の業績も過去最高益を更新すると予想されています。
― その要因はどこにあったのでしょうか。
大久保●牽引役となったのは輸出、ならびに企業の設備投資です。海外景気の回復とともに、為替(ドル/円)レートが安定していたことが背景にあるのも間違いないでしょう。一方、実質賃金の伸び悩みで消費支出全体は冴えない展開が続きましたが、株高や為替の安定を背景に、百貨店では高額品や免税品の売上が回復傾向にあります。労働需給の逼迫が賃金上昇の加速につながれば、個人消費全般の持ち直しにつながると思われます。2017年平均の完全失業率が、2.8%と24年ぶりの低水準にあるなど、雇用環境の改善が消費マインドの喚起につながることが期待されています。
― では、今年の日本経済は、このまま成長が続くと見ていいと。
大久保●CBREグローバルリサーチでは、2018年の日本の実質GDP成長率をプラス1.5%と、2017年とほぼ同程度の成長と予想しています。一方で物価の上昇率は依然として低位で推移するため、現在の緩和的な金融政策は当面、維持されるでしょう。今年4月には黒田日銀総裁の任期が切れますが、退任であれ、続投であれ金融政策に大きな変更はないと考えられ、日本の金利はまだしばらくは現状の超低水準で推移すると見ていいのではないでしょうか。低金利下での、低位ながらも堅調な経済成長という状況はまだしばらく続くでしょう。
― 日本経済に大きな影響を及ぼす米国の景気動向は。
大久保●ここ数年、世界各国で好況が伝えられてはいましたが、いずれも、こちらが好況のときはあちらが停滞と、国毎、地域毎の、局地的な感が否めませんでした。それが、2017年末には世界同時好況の様相を呈してきています。そうした中、米国では好調な景気を背景に、中央銀行であるFRBが金利引き上げを継続すると見られています。このことが市場金利の上昇、ならびに需要のスローダウンにつながることから、米景気は2019年以降に鈍化すると見ています。もちろん、そうなればFRBは金融政策を再び緩和方向に転換することが考えられますが、実際に景気浮揚効果が出るのは2020年末以降と思われ、 2020年の成長率は1%を下回ると予想しています。
― 米国の成長率の鈍化による日本への影響は。
大久保●当然大きなものになるでしょう。さらに、2019年10月に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げが予定通りに行われれば、2020年の日本経済はマイナス成長になる可能性が高いと考えています。 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、日本ではインフラ整備のための投資も含め、景気への影響は限定的と考えられます。