株式会社インテリジェンス コーポレートヘッドクォーター
経営戦略本部
FMサービス統括部
統括部長 西田 弘 氏
FMサービス統括部
ファシリティ購買部 拠点開発グループ
アシスタントマネジャー 高橋 和宏 氏
ポイントは情報収集とコミュニケーション、全国展開企業の賢い賃料改定戦略とは
まず御社のオフィス戦略として、拠点立地についてどのようにお考えですか。
考え方としては二つあります。一つは、ロケーションを重視したオフィス。私どもが提供する各種人材サービスの中でも、転職支援や派遣のお仕事紹介といった対面サービスの場合は、集客性が問われますから、駅前や駅近、ランドマークとなる有名ビルやグレードの高いビルを選択しています。
もう一つは、営業効率を重視したオフィス。近年は、ウェブや紙媒体などを活用した求人事業を拡張しており、こういったメディア事業の拠点となるオフィスの場合は、当社社員の営業拠点として交通アクセスの便利な立地を選んでいます。同じ駅近でも目立つ必要はなく、例えば一本裏道に入った場所になるでしょう。
現在のオフィス数は?
4月1日現在で57ヵ所。うち、首都圏が約20拠点ほどでしょうか。
弊社はこれまで、M&A等の手法を取りながら全国展開を進めてきました。昨年7月、アルバイト情報誌『an』や転職情報誌『DODA』を発行する学生援護会と経営統合した時点でのオフィス数は75。企業文化や経営手法の異なる2社が統合するのに最良の方法はオフィスを一緒にすることだと考え、統合後1年となる今年7月末を目処に、51拠点にまで集約していく方向です。
御社が進出する駅前や駅近、ランドマークビルなどは、昨今の賃料上昇の傾向に敏感に反応しているのではと思いますが、最初に市場の変化を感じたのはいつ頃なのでしょうか?
1、2年前あたりから感じていましたね。
実は、弊社が事業を拡大し、全国展開を始めたのは2002年ごろからです。今考えると、その頃は最も賃料相場の低い時期でしたから、オフィスの借りやすい時期と弊社の事業拡大の時期とがうまく重なったといえると思います。丸ビルへの本社の移転も2002年。オープン当初から入居しています。インテリジェンスの企業ブランドイメージの向上と、人材サービスという業種自体のイメージ向上を狙って、当時は、多少無理をしてでも丸ビルにオフィスを構えたいと考えました。その後、景気が回復し、堂々と表立って転職や求職活動をする人が増え、人材の流動化は大きく進展したといえます。
やはり賃料上昇を最初に感じたのは東京都心部で?
東京であるのは間違いないですが、丸の内やその他、当時、新規供給の多かったエリアは、多少遅めだったという印象を受けています。逆に、副都心に代表される大手ビルオーナーが既存有力ビルを所有しているエリアでは、特に上昇傾向が強いと感じますね。我々のところにも、「近隣ビルの上層階では坪単価いくらで契約が決まった」「こっちは、いくらだ」、といったような情報が入ってくるのですが、それが驚くような価格だったりするわけです。オフィス設立において、私どもは通常、先付け1年や1年半くらいで物件を確保していくのですが、他にも入居を希望するテナントさんがいるという事実を知るにつけ、新設や増床の意思決定をよりスピーディに行う必要があると感じます。
最近は、首都圏だけでなく、私どもが進出している地方都市中心部などでも、その傾向が出てきています。経済が活性化すれば人員や業容の拡大が進み、必要となる床面積も増える。そういう意味で、人材サービス業と不動産業とは相互に連関しているといえるでしょう。言い方を変えれば、私どもは、不動産市場が逼迫している都市にこそ出店していかなければならないということになります。昨年までは、中部圏に勢いが感じられました。関西も昨年あたりから除々に持ち直してきた感があります。
賃料上昇の市場傾向を受け、賃料改定の交渉は具体的にはどのようにされているのでしょうか?
まず第一に、交渉は情報戦です。市場での募集価格はもちろん、決まり値の相場観、需要と供給等、取引のある大手不動産会社や仲介業者を通じて、あらゆる情報を入手して交渉に臨みます。オーナーさんは、自分が所有するビルの新規募集価格に近い水準からご提示されることが多いので、我々は近隣ビルとの比較資料を用意して、「あのビルは坪単価いくらで出ているらしいですね」といった話をしながら値引き交渉を行っていきます。市場が逼迫するエリアとなると、オーナーさんからの提示は、「3割~4割増しは当たり前」といった状況。まずはそこからのスタートというわけです。
オーナーの要求をすべて受け入れることは難しいでしょうから、交渉は大変なのでは?
おこがましいようですが、弊社が入居することによるビル側のメリットを、強くアピールすることもありますね。人材サービスは、いわば"集客商売"。事務派遣サービスには20~30代女性、転職支援サービスには20代後半~30代男性を中心とする個人客が集まります。建物内の商業店舗へ集客効果があるだけでなく、これまでと違った客層を呼び込んで、施設全体を活性化したいと考えているオーナーさんにとっては必ずメリットがあるはず。交渉時、そこに響くようなプレゼンテーションをすることがポイントだと考えています。
他にも、弊社が実施するイベントやテレビCMなど、ビルの価値向上に少しでも寄与していると考えられるものは、交渉の材料の一つとして提示します。その際、口頭でお話しするだけでは説得力に欠けるので、月間来場者数や推測される広告効果などのデータに基づくプレゼン資料を用意するようにしています。先方の担当者を説得するだけでなく、その方が自社内のコンセンサスを得やすい資料、インテリジェンスを入居させておくことがビル側のメリットになると、客観的に思わせる資料を用意することが、交渉を進める上では重要だと思います。
これまでに、交渉が決裂して退去を決めたケースなどは?
それはないですね。お互いに決裂しようと思っているわけではありませんから。あくまで、大きな床面積で長く契約することが双方のメリット。何度もやり取りする中でお互いのニーズを理解し、合意点を探っていくことが第一です。
そして、なるべく全国レベルで施設コストを考えるようにしていきたい。各地に数多くの拠点がありますが、なるべく同一オーナーさんからビルを借りるようにする。つまり、スケールメリットで勝負することができるようになるわけです。例えば、今回の札幌オフィスの賃料改定では、オーナーさんに譲歩してもらう代わりに、次回福岡ではこちらが譲歩するといった具合で、トータルで利益を確保する。各拠点レベルでは、多少のプラス・マイナスがあったとしても、全国レベルでならせば許容範囲内といった戦略をとっていきたいと考えています。
御社のように大型ビルへの入居が多いと、定期借家契約が多くさらに大変なのではないでしょうか?
2002年前後に入居した大型ビルに定期借家契約がありますが、割合にすればほんの少し。それ以外は普通借家契約のケースがほとんどです。
賃料が流動局面にある今の不動産市場を考えると、テナントにとってもオーナーさんにとっても、比較的長期間となる定期借家契約というのはリスクが大きいのではないでしょうか。2年ごとに賃料見直しのチャンスがある普通借家契約の方が、今の時代はリスクが少ないのではないかと思います。
オフィスの数が57もあり、2年ごとの契約となると、各地で賃料交渉の実務が頻繁に発生するので大変なのでは?
そうですね。確かに大変ですが、その交渉は忍耐強くやっていかないと、会社にとって最も大切な将来への投資のための利益が残せません。全国で借りる坪数が大きいほど、坪単価が100円上がるだけで全体では膨大な額になっていきますから、一つひとつ、真剣に対応しています。
加えて、たとえ賃料改定交渉の時期でなくても、相場感から見て賃料が高めだと感じれば、普段からオーナーさんにそのように伝えるようにしています。それが布石になって、次の賃料改定の交渉で我々の意見が反映される場合もあります。もちろん、反映されない場合も多いですが...
オーナーさんとの良好な関係を維持するには、それが「この賃料、高くない?」であっても、常にコミュニケーションを取っていくことが重要だと思います。次にどういう場所への出店を考えているといったことも含めて、全国各地でお世話になっている各ビルオーナーさんと、日頃から情報のやりとりを心掛けるようにしています。