「物流2024年問題」への対応が急務。トラック輸送変容で物流拠点の役割が変化する中、 国交省が描く「高度化・集約化・協業化」の新戦略。
国土交通省 物流・自動車局 貨物流通経営戦略室長 水野 真司氏
近年、トラックドライバーの時間外労働上限規制(物流2024年問題)や災害問題に社会が直面する中、物流の構造的課題に対応する必要性が高まっている。産業インフラでもある物流拠点ニーズの変化やアセットの老朽化を踏まえ、時代に即した政策のあり方が求められているのだ。こうした背景を受け、国土交通省および関係団体による「物流拠点の今後のあり方に関する検討会」が進められ、2025年4月に報告書が公表された。物流システ ム全体の構造転換が求められる中、国はどのような政策的方向性を示し、物流不動産デベロッパーにどのような役割を期待しているのか、国土交通省担当室長の水野氏に話を聞いた。
EC市場拡大で「個数」増加、輸送効率は低下
――昨年から今年にかけて「物流拠点の今後のあり方に関する検討会」が進められました。その中で、我が国の物流、特に物流不動産や物流拠点が直面している課題について、国としてはどのようにお考えでしょうか。
水野氏:まず、課題全体から申し上げます。今回開催した検討会において、物流拠点として位置づけられるものには、物流不動産や倉庫、我々が所管するトラックの世界で言えばトラックターミナルといったように、多種多様なものがあります。昨今、インターネットの活用が進展したことでEC市場が活性化し、物流全体の「量」というよりは、取り扱う荷物の「個数」が増加しています。また、いわゆるジャストインタイムのような、必要な時に必要なものをすぐ届けてほしいというニーズも高まり、荷主が自社で在庫を持たず、物流不動産や倉庫に商品を保管し、そこから出荷する形態が進んできています。このため、「保管」という機能を持つ物流不動産や倉庫の重要性は、ますます高まっています。全体的なトレンドとして、物流施設の敷地面積は増加傾向にあり、施設内の在貨率も高まっています。
2024年問題で長距離輸送に限界、老朽化施設も課題
水野氏:こうした状況に加え、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されることにより、今のままでは物流に滞りが生じる、いわゆる「物流2024年問題」が懸念されています。これまでのやり方では、特に長距離輸送が困難になります。貨物輸送全体におけるトラックの割合は非常に高く、また、船や飛行機、鉄道で輸送した場合でも、最終的な配送(ラストワンマイル)はトラックが担うため、トラック輸送の維持は極めて重要です。このトラック輸送が社会問題化しているというのが、まず大きな前提としてあります。
既存の倉庫に目を向けると、倉庫業者の皆様は長年のノウハウを蓄積して事業を運営されており、その機能は引き続き重要です。しかし倉庫業法自体が古い法律であることに加えて、昔に建設され、老朽化した施設が、現在も利用され続けられているケースが少なくありません。これらの施設は、庫内の容量が現代の拡大する需要に満たないなど、機能面で課題を抱えています。したがって、今後は老朽化した施設の課題を踏まえ、物流拠点の「高度化」「集約化」「協業化」への対応が必要不可欠です。
――荷物の総量は変わらないか減少しているにもかかわらず、小口化によって個数が増え、トラック輸送への負担が増している。その状況でドライバーの労働環境を保護するための規制が強化されたので、物流システム全体を刷新せざるを得ない時期に来ているわけですね。
水野氏:おっしゃる通りです。輸送全体を見た時、トラック輸送は「紐」のようなネットワークだと捉えています。そして、今後はそのネットワークは拠点があって初めて機能します。トラックだけでも、拠点だけでも成り立たず、両者は一体不可分の関係にあるわけです。そして運ぶトラック自体も重要ですが、その結節点となる物流拠点は極めて重要です。特に、地理的な結節点(例:高速道路のインターチェンジ付近や鉄道駅付近)に加え、保管機能を持つ物流不動産や倉庫は、物理的なものだけでなく、時間的な結節点としてトラック同士をつなぐ、非常に重要な役割を担っています。今回の検討会は、こうした観点から議論を進めてまいりました。
時代の変化に応じた、制度見直しの必要性
――これらの課題に対し、国はこれまでどのような取り組みを行ってきたのでしょうか?
水野氏:歴史的に最も長い取り組みは、倉庫に関する税制優遇です。これは約60年間続いており、公共性の高い倉庫機能(食料保管や輸出入貨物を扱う保税倉庫など)を支えてきました。近年では建物や設備、昨今はデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進するため、倉庫内の省人化・無人化機器の導入に対する予算措置も講じています。また、物流総合効率化法に基づき、モーダルシフトを推進したり、特定流通業務施設に対する、都市計画法等における処分の適切な配慮といった取り組みも行ってきました。
これまでの税制優遇は、倉庫業法に基づき登録を受けた、適格性のある倉庫業者が使用する倉庫を対象としてきました。公共性を担保するために、寄託契約の約款を国に届け出るなど、一定の規制下にある事業者への支援という側面があったためです。一方で、DX機器や非常用電源の導入などに対する予算措置(補助金)については、必ずしも倉庫業者である必要はなく、例えば物流不動産事業者が自社の施設に導入する際に、手を挙げることも可能です。時代が変わり、輸送・保管される荷物やそれを収める器である物流拠点のあり方が変化する中で、国の制度も徐々に見直しが必要であると認識しています。
――検討会の報告書では、今後の政策の方向性として、どのような点が示されているのでしょうか?
水野氏:検討会は去年の10月から今年の3月まで、4回にわたって行いました。報告書では、今後の方向性として主に3つの柱を掲げています。第一に、「物流拠点の整備に係る国の方針策定」です。これまで個々の事業者の経営判断に委ねられてきた拠点の配置について、国としてほぼ初めて、物流拠点に求められる機能や役割、そして国全体から見た最適な配置に関する方針を示すことを検討していくこととしています。これにより、地方公共団体が都市計画を策定する際の指針となることも期待しています。
第二に、「基幹物流拠点の整備に係る関与・支援」です。トラックドライバーの長距離輸送が困難になる中、幹線輸送を担うトラックと地域内の集配を担うトラックの間で荷物を積み替える「中継輸送」や、モードを横断して荷物を結びつける「結節点」としての機能を持つ拠点の整備が不可欠です。これは個社の努力だけでは難しいため、複数の事業者が連携して拠点を整備する取り組みに対し、国が支援を行う枠組みを構築します。
第三に、「公共性の高い物流拠点の整備・再構築に係る関与・支援」です。特に港湾地域にある冷蔵倉庫など、国民生活に不可欠な機能を持ちながらも老朽化が進んでいる施設について、機能の集約化や高度化を伴う建て替えを促進します。また、物流拠点は、雇用創出や産業振興、災害時の支援拠点といった、多岐にわたる公益性・公共性の高い機能を持っています。今後は公共交通のように、ネットワークを維持するという観点から、基幹となる物流拠点の整備や公共性の高い物流拠点の整備・再構築に対し、地方公共団体にその重要性を認識していただき、まちづくりの中に積極的に位置づけてもらう必要があります。
財政支援・税制優遇・規制緩和の3ツールで支援。事業者連携が鍵
――今後の具体的な支援策について、現時点での見通しをお聞かせください。
水野氏:具体的な制度設計はこれからですが、国の支援策としては、財政支援、税制優遇、そして規制緩和という3つのツールを組み合わせていく方針です。近未来を見据えると、自動運転トラックの発着というのも見越して、新技術への対応ができるような中継輸送拠点の整備も検討しています。これらの制度設計、拠点づくりに欠かすことができないのが、事業者同士の連携です。中継輸送拠点になる拠点をつくる者、管理する者、そこに乗り入れるトラック事業者など、様々な事業者が連結する必要があります。国としては、拠点になり得る物流不動産の方々、倉庫の方々、トラックターミナルの方々、トラック事業者の方々などが連携していく中で、それに対して的確な支援をすべきだと判断しています。
――こうした政策の中で、賃貸物流不動産とそれを開発するデベロッパーが果たす役割についてはどのようにお考えですか?
水野氏:物流不動産、デベロッパーの皆様には大きな期待を寄せています。デベロッパーの皆様は、大規模で高機能な物流施設を開発するための「スケール」と「アクセス性の良い土地の確保」、そしてそれを実現するための「開発ノウハウ」と「資金力」があります。また、そこを実際に使用して効率的な物流を構築するテナントを誘致する能力にも長けています。さらに重要なのは、デベロッパーの皆様が持つ「まちづくり」の視点です。これまでの物流施設開発のみならず、オフィスビルや商業施設開発で培われたノウハウを生かし、単に施設(ハコモノ)を建設するだけでなく、公園や商業施設を併設するなど、地域社会との親和性を高め、新たな活動を創出する、面的な開発が可能です。我々が目指すのは、単なる「施設」の整備ではなく、地域に貢献する「拠点」の創出であり、その点でデベロッパーの皆様が果たす役割は極めて大きいと認識しています。
特に、東京と大阪を結ぶような大規模な中継輸送拠点など、国の基幹となる物流拠点の整備は、デベロッパーの皆様の力なくしては実現が難しいと見込んでいます。例えば、デベロッパーが主体となり、輸送を担うトラック事業者と連携する形もあれば、倉庫事業者が中心となる形もあり得ます。重要なのは拠点をつくる者と、その拠点を使って物を運ぶ者が一体となって、効率的な輸送ネットワークを構築するという目的を共有することです。そして何より、多面的な物流拠点ができることで雇用の創出だけでなく、社会活動や地域活動の変容が起きると想定しています。オフィスビル、商業施設、物流不動産など、様々な形がありますが、地域の中で新たな活動を生み出す「物流拠点」づくりを促進するため、国としても様々な角度から支援していく方針です。


