コスト削減から始まった物流業界の環境への取り組み

ここ数年、物流業界における環境への取り組みが急激に進んできましたが、実は"コスト削減"という意味では、ずっと以前から同様の動きが始まっていました。というのも、もともとはコスト削減を目的にスタートしたものが、結果的には環境対応へつながっているといったケースが、物流業界では非常に多く見受けられるからです。例えば、これまで小型車両で別々に配送していたものを大型車両で一括配送する、あるいは、点在していた倉庫を大型施設に集約することで配送ルートを減らす。このようなコスト削減のための配送効率化は、結果的にCO2削減にもつながり、環境へ配慮した取り組みとして進んできたという経緯があります。
ただ、こうした取り組みが一気に加速したのは、やはり首都圏におけるディーゼル車規制や京都議定書などで、環境基準の目標が設定されたことがきっかけだったのではないでしょうか。この頃から環境問題がメディアでも盛んに取り上げられるようになり、荷主企業や物流会社の環境対策への意識が高まってきたように思います。
物流業界における環境への取り組みといえば、トラックの排ガスや積載率など、配送分野での施策がまだまだ大きな割合を占めています。しかし最近では、物流施設そのものが環境に貢献できることも増えてきていると思います。例えば、先ほども述べたように、物流拠点の集約化によって配送効率が高まれば、環境負荷低減に大きくつながります。また、建物自体に目を向ければ、最近は風力発電や太陽光発電を導入したり、断熱性に優れた素材を活用することで、CO2削減や省エネに取り組む動きが進んできています。

物流不動産分野での環境対応が進んできた背景には、近年になって不動産投資家が登場し、使い勝手のよい大型物流施設が供給されるようになったことが大きく影響しているといえるでしょう。これまで自社の投資だけでは大型施設を建てられなかった企業も、"借りる"という選択をすることで物流拠点の集約が可能になり、また大型物流施設の賃貸マーケットが広がるにつれ、施設の経済効率や環境効果も"選ばれる"ための重要な要素になってきています。こうした賃貸市場の発展も、環境に対応した物流施設が増えてきた要因ではないかと思います。
物流不動産におけるCO2削減のための施策
それでは、物流不動産の分野において具体的にどのような取り組みがなされているのか。先ごろ社団法人日本ロジスティクスシステム協会のロジスティクス環境会議がまとめた『グリーンロジスティクスガイド』の「ロジスティクスにおいて実施すべき主な環境負荷低減施策」をひも解きながら、物流施設に関係のある項目をピックアップして、お話ししていこうと思います。
「入出荷に起因する待ち時間の削減入出荷バースの整備 待機所や待合室の設置」によるエコドライブ推進
従来の多層階の保管型倉庫で問題となっていたのは、バースの数が限られていたために、入荷待ちのトラックが非常に多く待機してしまうことでした。時に、施設外の道路に列をなし、周辺への迷惑が社会問題化しているケースさえ見受けられます。物流会社としても、待ち時間が無駄になるばかりか、エンジンを切らずにアイドリングして待機するため、環境への負荷も相当なもの。それに対し、最近の大型物流施設では十分な数のバースが整備されているうえに、多層階の施設でもランプウェイで上層階まで大型トレーラーが乗り入れられるため、待機時間の削減、それに伴う排ガスの削減にも貢献しています。
また、マルチテナント型物流施設の中には、トラックの待機所や運転手専用の待合室が設置されている施設も多くあります。運転手はトラックを待機所に止め待合室で休憩することができるので、運転手にも環境にもやさしい取り組みだといえるでしょう。規模の小さい自社倉庫では、待機所や待合室を確保することはなかなか困難なのですが、大型施設であれば、コスト効率と環境効果を両立させた施策も可能になるのではと思います。
断熱素材の活用による「ハード対応」
従来の倉庫では、壁や床や天井が鉄板むき出しの状態だったものが多く、暖房や冷房などの空調効率も決して高くはありませんでした。しかし、最近の大型施設では、断熱性に優れた素材を使用したり、漏水を防ぐことで空調効率を高めたりしています。その結果、施設内で使用する空調費用のコスト削減と省エネ、CO2削減につながっています。
「モーダルシフトの推進」
これは、トラック輸送を鉄道輸送に替えることでCO2を削減するという施策ですが、物流施設が鉄道コンテナ駅の近くに立地していれば、モーダルシフトによる高い効果が期待できるのではないでしょうか。鉄道コンテナ駅の近くには昔から物流施設が集積していますから、コンテナ駅近くに立地することは、配送ルートの共同化や帰り荷の確保など配送効率の面でもメリットがあります。
とはいえ、モーダルシフトは30年ほど前から提唱されているものの、なかなか進んでいないのが実情のようです。その要因として考えられるのは、コストと時間の問題でしょう。鉄道のスケジュールは正確なのですが、出発駅でトラックから鉄道へ荷物を載せ換え、さらに到着駅で鉄道からトラックへ載せ換えるという手間とコストがネックになっているようです。
「拠点配置の見直し」と大型化・集約」
物流拠点を大型施設に集約することで、配送ルートの集約や配送距離の短縮ができ、結果的にCO2削減につながります。先に述べたマルチテナント型大型物流施設もそうですが、この動きを支援するものとして国土交通省が推進する物流総合効率化法が挙げられます。物流拠点を高速道路や港湾などの近くに集約させるなど、環境負荷を低減する一定の基準を満たすと認定された事業者は、事業許可の一括取得や税制特例、資金面の支援などを受けることができるというものです。
どの企業も拠点配置の見直しの重要性は認識しているものの、移転や統合にかかる経済負荷を考えると、なかなか実現に移せないのが現状ではないでしょうか。このように自社での投資が難しい場合には、賃貸倉庫の活用や優遇策の活用といった動きが増えてくるのではないかと思います。
「共同化」による配送計画の見直し
倉庫団地やトラックターミナルなど物流施設が集積しているエリアでは、各社が配送ルートを集約して共同配送を行うことで、走行距離を短縮している例がよく見られます。最近では、マルチテナント型施設においても、テナント同士がトラックを融通し合って荷物を配送し、コスト削減やCO2削減につなげているケースがあるようです。
「輸送階数の削減」をもたらす大型車両の乗り入れ
以前は大型の40フィートコンテナ車が乗り入れられない倉庫も多く、4トン車で何度も輸送したり、途中で4トン車に積み替える必要があり、手間もコストもかかっていました。最近は40フィートコンテナ車に対応した大型施設が増えてきており、輸送回数を減らすことでCO2削減につながっています。
「多段積みの実施」による積載数の増加
同じ広さの倉庫であれば、天井が高いほど多くの荷物を保管することがでるため、入りきらない荷物の保管場所を新たに建設する必要がなく、環境負荷も低いと考えられます。天井を高くするためには構造的に柱が多く必要で、建設はコスト高になり、昔の施設では、天井の低い倉庫がほとんどでした。最近では建設技術の進歩により、天井の高い施設がリーズナブルな価格で建設できるようになっています。荷物を多段積みにすることで積載率を上げ、効率的な施設利用で環境負荷低減に貢献しているといえるでしょう。
エコにかかるコストは賃料に還元できていない
このように、不動産分野における環境対応の取り組みはここ数年で急激に進んできましたが、環境対応にかかるコストを賃料や収益に還元するまでには至っていないのも事実で、まだまだ過渡期にあるといえます。また、利用する物流業者、賃貸施設でいえば借り手サイドの意識にも、さらなる変革が必要だといえます。
これは、一般的な賃貸アパートや賃貸マンションを例に説明するとわかりやすいかもしれません。いまや賃貸マンションではエアコン付が当たり前になっていますが、これらは非常に安価な型遅れの機器が取り付けられている物件もみられます。安く貸し出すためイニシャルコストを抑える代わりに、省エネ対応商品に比べて3~5倍も燃費が悪いものもあります。ランニングコストは借り手持ちですから、長期的にはコスト高であるばかりか、環境への負荷も大きくなってしまうでしょう。しかし、「イニシャルコストが多少高くても、空調効率のすぐれたエアコン付の部屋がいい」と考える借り手はまだ少なく、環境対応のコストが賃料に上乗せされにくいのです。
これと同じことが、物流施設の市場でも起きています。いまはまだイニシャルコストに目が向けられていますが、いずれ経済効率や環境効果を含めたトータルコストを基準に物件が選択される時代がくるのではないかと思います。
最後に、環境への取り組みをさらに活性化させるための私の考えを述べさせていただきますと、環境基準に合致した施設に対しては、単なるお墨付きを与えるのではなく、より具体的な特典を付与するのが一番なのではないかと思います。物流総合効率化法では、税制特例などの特典を受けられるのは施設を利用する事業者に限られています。このような認定資格を、施設を開発し賃貸する事業者にも広げられれば、環境にやさしい施設の開発がより進んでいくのではないかと考えます。