自社ビル老朽化の対策移転に伴いグループ企業を集約。
商業店舗をオフィス空間にリノベーション。
グループ企業の拠点集約を伴う北海道支店の移転計画。その移転先は、多数のショップが集まる大型商業施設「サッポロファクトリー」の1階フロアだった。なぜ集約したのか、どうして商業施設にオフィスを構えたのか。その背景を探る。
関連会社との協業を目的に拠点の集約統合を模索
1910年、中国は大連で貿易商として産声を上げた内田洋行。その後、事務用品などの「オフィス関連事業」を皮切りに、「教育関連事業」「情報関連事業」の3本柱で事業を拡大し、今日に至っている。同社が北海道に進出したのは1946年のこと。1964年には札幌市内に自社ビルを建設し、事業を展開。また、事業の発展に伴い関連会社数も増加していき、それぞれが独自に拠点を構えていた。
その同社北海道支店が、2013年4月、移転により関連会社を含めた拠点集約を実施した。同支店に移転の構想が持ち上がったのは、15年近く前の1990年代後半にまでさかのぼる。最大の理由は築40年が経過した自社ビルの老朽化であった。だが、移転の目的はそれだけではない。「当社グループの事業は、これまで各社それぞれ関連性が薄いことから、独自に拠点を展開してきました。ですが、近年ではITCを中心に、ビジネスがボーダレス化してきています。当然ですが、顧客情報や商材を共有するクロスセリングのメリットは大きいでしょう。特に北海道のような限られたマーケットでは、その傾向が顕著になっています。また、分散した拠点の維持管理コストの問題もあり、集約に踏み切ったのです」。そう語るのは、株式会社内田洋行北海道支店支店長の名畑成就氏だ。
ファシリティの流動化を目指して自社ビルから賃貸ビルへ
当初は、自社ビルの建て替えも検討されていたという。既存のビルは3階建で、70人程度しか入居できず、グループ会社の社員は入れない。それが、これまで分散していた理由でもあった。土地は850坪あり、建て直すには申し分のない広さ。だが、この敷地の広さを考えると、建て替えとなれば自社で使用する以上のある程度の規模のビルを建てなければもったいない。しかし、札幌の当時のオフィスマーケットを考えると、余剰フロアにテナントが誘致できるか、仮に貸し出して十分な利回りが確保できるのかという懸念があった。また、区分所有という選択肢も検討されたが、長期的に見ると経年劣化による大規模改修の煩わしさを次世代にまで残すことが躊躇された。「一地方都市の拠点である以上、子会社の統廃合等も含めた経営戦略や営業施策の変化に、フレキシブルに対応する必要があるでしょう。ファシリティは流動的であるべきだという考えが大勢を占めるようになりました。そこで賃貸ビルへの移転を真剣に検討し始め、CBREに移転候補先を探してもらうよう打診。それが2012年の春ごろのことでした」(名畑氏)。
移転先の条件として、1つは関連会社を含めた総勢130人程度がワンフロアに入れる広さがあること。もう1つは駐車場の確保であった。北海道は車社会であり、内田洋行だけでも18台。関連会社を含めると約40台の社有車がある。月極の駐車料金が2万円とすると、これだけで月額80万円とバカにならないコストが発生する。しかも、ショールームを併設しているため、来客用の駐車スペースも確保しておかなければならないのだ。
これらの条件を満たす移転先として選択したのが、ショッピング・アミューズメント・レストラン・ホテルなど、160ものショップが集まる大型商業複合施設「サッポロファクトリー1条館」の1階スペースだった。
関連会社との意思統一を図るワークショップの開催
このスペースは、以前は大型量販店が出店していた場所であり、完全な商業区画である。その約800坪に、関連会社4社を含めた計5社のオフィスと、ショールームおよび多目的ホールである「ユビキタス協創広場U-cala」を併設した。もちろん、同社のICTと空間デザイン構築のノウハウを駆使してのリノベーションである。
このスペースを選択した理由として、まず第一に130人がワンフロアに収まるビルが他になかったことが挙げられるが、もちろんそれだけではない。日本にはまだまだ画一的で無機質なオフィスが多い。だが同社では、今後、ICTが進化すればオフィスの自由度はもっと高まり、どこでも働く場になり得るし、働き方を変えることでオフィスワーカーの生産性をさらに上げることができると考えている。その意味で、フルスケルトンの商業スペースにオフィスをつくることは、同社の目指す執務空間のあり方を体現するには格好の場所であり、顧客に対するインパクトも大きいと言える。また、大型商業施設なので、駐車スペースの確保に困ることもない。
「移転集約にあたっては、これまで別々に活動していた5社の知を結集し、どのように相乗効果を出すかが最大の課題でした。そのため、移転の半年以上も前からワークショップを開催し、内田洋行グループの社員としてどうあるべきか、どうありたいか、そのためにはどんなファシリティであるべきか、それを実現したのがこのオフィスなのです」と、今回の移転プロジェクトのリーダーである株式会社内田洋行ビジネスエキスパート業務サポート事業部の舟根真智香氏は語っている。
その言葉を裏付けるように、ワークプレイス内には国産の木材を多用して、ぬくもりのある空間に仕上げている。多目的ホールには6mのホワイトボードと、大型のマルチスクリーンを設置し、各種のセミナーや発表会にも対応できる仕様になっている。またLED照明を採用することで、ECOの推進にも努めているという。商業施設内だけに、セキュリティには万全かつ、利用にあたってストレスの少ない顔認証システムを2ヶ所に設けて対応している。
「当初は、一般のオフィスビルへの移転を想定して予算を組んでいたのですが、フルスケルトンで、さらにリノベーションを施すことになり、若干の予算オーバーとなってしまいました。ただし、新オフィスはこれを補ってあまりあるメリットが出ています。商業施設のため集客力が高く、この2年でショールームへの来場者が8,000人超と、以前と比べて大幅にアップしています」(舟根氏)。
移転後2年が経過した現在も、半年に1度、社員に向けての満足度調査を実施し、その不満の内容と改善点を貼り出すことで、全社員に明確にしているという。当初の目的であった、グループ会社社員同士の偶発的な出会いによるミックスアップも、徐々に現実のものとなっている。今後は、業務の融合のみならず、例えば非公式な飲み会をグループ内で行うなど、さらに意図的、継続的に企業間のコミュニケーション向上の取り組みを仕掛けていきたいという。
こうした施策も含め、同社の目指すワークプレイスのあり方が広まることで、ビジネスの活性化が促されることに期待したい。