セイコーエプソン株式会社
執行役員
ビジュアルプロダクツ事業部長 生産企画本部長
渡辺 潤一 氏
JR新宿駅直結ビルにグループ拠点集約
当社は2013年度からの3ヵ年、「SE15後期 新中期経営計画」を掲げ、2016年度からの次期中期経営計画における成長戦略の基礎を築く期間と位置付け、安定的かつ継続的なキャッシュ創出力の構築を基本方針として、事業構造の再構築を推進しました。
2016年2~3月に実施したエプソングループの拠点集約も、この経営目標達成に向けた施策の一つです。首都圏に拠点を置く当社本店およびエプソン販売㈱本社とオリエント時計㈱本社を「JR新宿ミライナタワー」に移転しましたが、これは、中長期的な事業成長の実現に向けて首都圏機能の集約・一体化を進め、コミュニケーションを活性化し、製造販売一体の強化と経営の迅速化を目的としたものです。
新宿駅直結の当ビルを移転先に選んだのには、社員の通勤の利便性向上目的もありますが、オフィスを出てすぐ下にあるホームから本社のある長野県内の各拠点へと、JR中央本線特急を利用してスムーズにアクセスできることも大きな理由です。移転後は、首都圏営業部門と各事業部門との連携が一層緊密になりました。
新オフィスでは、当社としては初めてフリーアドレスを採用しましたが、デスクワークが少ない営業中心の拠点のため、一人当たりの面積を5㎡程度に削減することが可能となり、コスト的にも効率的なレイアウトとなっています。また試験的な取り組みとして、オフィス中心部に当社製品のプロジェクターとネットワークカメラを据え、離れた拠点のメンバーと随時打ち合わせができるように接続しています。一般的なTV会議とは異なり、都度会議室を予約して接続したり会議を設定したりする手間は不要です。バーチャルに相手のオフィス空間とつながっている状態で、話したいときにいつでも話ができ、メールでやりとりする時間を削減することも可能となり、コミュニケーションの活性化に効果を発揮しています。
内部活用か処分かの明確な領域分け
当社の「SE15後期 新中期経営計画」では、将来の事業成長の実現に向けて事業構造の転換を進めましたが、これらの取り組みに加え、経営資源の効率化および財務体質のさらなる強化を目的とした施策の一つとして、不動産資産の入れ替えも推進してきました。
2015年3月、大阪御堂筋沿いの一等地にある当社保有の大型オフィスビル「エプソン大阪ビル」を売却。同年12月には、神奈川県寒川町の湘南事業所跡地を売却しましたが、この物件はJR駅から徒歩圏内で幹線道路のインターチェンジにも近く、周辺は宅地開発が進んでいます。これらに共通するのは、不動産として市場価値があるということです。当社では、所有不動産の活用・処分については、内部活用のしやすさと、市場性の有無を判断基準としており、当社にとって使い勝手は良いが市場性がない物件は集約や開発拠点等として内部で適所活用を図ります。一方で、使い勝手は悪いが市場性がある物件は機を逸せずに売却し、そのリソースを「中期戦略」に基づき再配分しており、前に挙げた2物件はこれにあたります。
こうした施策が可能となったのには、当社では「生産企画本部」が不動産戦略を管轄していることが背景にあります。生産拠点戦略や事業拠点戦略を経営戦略とどう結びつけるかを担う部門と、管財の役割を担う部門が一緒になったのが生産企画本部で、2015年3月の機構改革で導入された新しい組織です。以前は不動産は管財部門が担当しており、事業部の方針が優先されるため対症療法的な取り組みが多かったのですが、各事業に横串を通してリソースシフトを考えることができるようになりました。これは現在の当社の組織的特徴であると言えるでしょう。
地域リスクを考慮した海外の拠点配置
当社は現在、海外において販売・サービス拠点、開発拠点、生産拠点等を合わせて約260の拠点を展開しています。拠点戦略に関しては、一般的に、国内と海外で管理が分断し、海外は事業部門に一任といった会社が多いと思われますが、当社では先に述べた生産企画本部が全体を管轄しています。
海外の生産拠点は主に東南アジアや中国に分布しており、これらの既存拠点については、消費地生産の是非、部品調達、人口、給与水準、地域リスク、BCPといった様々な面から評価して再編を行っています。BCPの視点からは地域リスクを考慮し、在庫配置をどうするか、代替調達をどうするかを調整しています。近年の東南アジアでは賃金上昇率が非常に高く、競争力ある商品を開発するための生産拠点戦略には一層の取り組みが必要です。
成長分野には積極的な投資を行っています。2016年4月には、インドネシアの製造子会社にインクジェットプリンターの組立工場を増設。ここは生産・物流機能に加え、プリンターの設計機能を有していることが大きな特長で、現在約1万人を雇用しており、今後の需要動向を見ながら生産規模を拡大させていく予定です。さらに、2017年にはフィリピンでも新工場の拡張を予定しています。
国際経済の見通しが不透明な中、先進国の消費動向や新興国の市場をにらみながら、5年後、10年後の最適供給拠点をどうするか検討していく必要性を強く認識しています。
現在の新組織体制がスタートしてから、事業部間や部門間との協働が密になり、関係各部門間で情報共有が促進された結果、リソースシフトを速やかに実現することができました。全社最適を第一に優先することで、判断のスピードも速くなり、市場のタイミングを逃さず動くことが可能となっています。
2016年3月、当社は2025年に向けた長期ビジョン「Epson25」および「Epson 25 第1期中期経営計画(2016年度~2018年度)」を策定、発表しました。さらなる事業基盤強化に向けて、今後の不動産戦略においても、内部活用と市場性を見据え、会社の利益体質の強化にもつながるスピード感を持ったリソースの再配置を積極的に展開していきます。
(取材 2016年12月 ※組織名・役職名は、取材時のものです)