シービー・リチャードエリス株式会社
東京本社 インダストリアル営業本部
佐藤 亘
一大経済圏を成す横浜エリア 横浜港を中心に物流施設が集積
横浜は、東京に隣接するサブマーケット的なイメージのあるエリアですが、その経済力はかなりのもので、同エリアだけでも人口360万人を抱える一大経済圏を形成しています。その横浜周辺の物流マーケットは、来年開港150周年を迎える横浜港を中心に発展してきました。
横浜港は、京浜工業地帯から内陸部にかけて広がる大規模な工業地域の玄関口。名古屋港に次ぐ国内第二の港であり、取扱貨物の多くを完成自動車や自動車関連部品が占める貿易港です。総貨物トン数、コンテナ取扱量ともに3年連続で過去最高を更新しており、順調な伸びをみせています。輸出入貨物の割合はおよそ半々ですが、輸入に比べて輸出が若干多いのが特徴のひとつ。輸入型港湾といわれる東京湾の機能を補完する役割も果たしています。
戦前や戦後直後は、港湾の内陸寄りのエリアに貨物が荷揚げされていましたが、近年になってコンテナ貨物が増えるにつれ、水深を確保したバースが外港エリアに建設されるようになっています。現在、荷揚げの中心となっているのは、大黒ふ頭、本牧ふ頭、本牧ふ頭南の3ふ頭です。歴史の古い大黒ふ頭では完成自動車の取り扱いが多く、また比較的新しい本牧ふ頭、本牧ふ頭南ではコンテナ貨物が多くなっています。
横浜港流通センターがエリア内のベンチマークに
横浜周辺では、この横浜港を中心に物流施設が作られてきましたが、これまでは倉庫会社の営業倉庫が大半で、大型賃貸施設の開発案件はそれほど多くはありませんでした。これらの既存倉庫の多くは、ワンフロアの面積が狭く、多階層の施設です。これまでのように保管するだけの"ストック型物流"であれば使い勝手に問題はありませんが、入ってきた荷物を加工してすぐに出す"スルー型物流"が主流となってきている今は、階をまたいで荷物を上げ下げするよりワンフロアで作業できたほうが便利なのは説明するまでもありません。これは横浜に限ったことではありませんが、こういった既存倉庫は、今の物流ニーズに合わなくなってきているといえるでしょう。
そのような中、1996年、大黒ふ頭に国内最大級のマルチテナント型物流施設「横浜港流通センター(Y-CC)」が建設されました。その当時は、まだ「マルチテナント型物流施設」という言葉は一般的ではありませんでしたが、延床面積約10万坪を賃貸オフィスビルのように多数のテナントにより使用するもので、ランプウェイ方式を採用し各階にトレーラーが乗り入れる現在多数開発されている最新物流施設のはしりといえるものです。そしてそれ以降、あらゆる意味で、このY-CCが横浜周辺の物流施設のベンチマークになっています。この地域に新規で供給される施設は、Y-CCと比べて立地はどうか、機能面の良し悪しはどうかということを基準に、募集賃料相場が形成される傾向にあります。
Y-CCという大規模マルチテナント型施設がすでに存在するために、横浜においては、投資家が新たに供給する大型物流施設に対して好意的な反応が多いように感じます。2005年、プロロジスが鶴見地区に開発した「プロロジスパーク横浜」は、竣工前にほぼすべてのテナントが決まる好調な滑り出しでした。続いて昨年11月には、昭栄が「J&S川崎浮島物流センター」、今年1月にラサール インベストメント マネージメントの「ロジポート川崎」が竣工しました。今後も引き続き大型施設の新規供給が予定されています。中でも注目されているのは、ニューシティコーポレーションが大黒ふ頭近くの大黒町で計画中の大型物流センター「ニューシティ横浜ロジスティックスパーク」です。コスモ石油の跡地開発として2006年3月に売却され、環境アセスが実施されていた頃から、敷地面積約7万坪の再開発として、高い注目を集めていた案件です。
懸念される施設の過剰供給 時が経てば解消の方向へ
スルー型物流のニーズを見込んだ大型施設の新規供給が続く一方で、これらの供給がたまたま同時期に重なってしまったため、過剰供給が懸念されているのも事実です。供給時期が重なったのは、いくつかの案件で、土地の購入から環境アセスの実施、建設着工、引き渡しまでのスケジュールが予定よりもずれ込んだためではないかと思われます。大型施設に入居する企業の大半は物流会社であり、彼らはその先に荷主を抱えていますから、価格に対しては非常にシビアです。入居率が思うように伸びない施設側としては、契約賃料を引き下げてでもテナント企業を誘致しようとする傾向がみられます。そのような状況が続けば、その地区の賃料相場も下落していくでしょうし、すでに入居しているテナント企業からの下げ圧力にもつながるでしょう。テナント企業の中には、しばらく様子見の空気が感じられるところもあります。 ただ、時間が経てば過剰供給も解消されるでしょうから、賃料も元の水準に近いレベルまで回復するのではないかと思われます。横浜港がいまだ取扱貨物量を伸ばしている優良港であること、背後に居住地区が近接しているために人材雇用に適していること、また土地の取得が難しい東京港周辺では大型施設の活発な新規供給が見込めないことを考えると、横浜港や川崎港周辺の物流マーケットのポテンシャルは非常に高いのではないかと思います。
首都圏全体で競争激化 羽田空港国際化の明るいニュースも
こうした物流施設間の競争は、横浜・川崎エリア内に限ったことではなく、首都圏という広い範囲で競争が行われていると考えてよいでしょう。テナント企業にとって賃料は重要な判断材料のひとつですから、より賃料の低い物件が千葉に存在すれば、千葉へ流出するケースも散見されます。 また、横浜港で荷揚げしたコンテナ貨物を北関東の賃料の低い施設まで移動させ、そこで荷解きして首都圏に配送するというケースも増えてきています。港湾エリアに拠点を置かず、賃料の安い都市郊外部などの施設を利用するという傾向は、横浜港に限ったことではありません。ただ、近年の原油高や環境問題を考えると、横浜から北関東までコンテナを移動させることが果たして効率的なのか、いずれ港湾エリアを拠点とする企業が増えてくるのではないか、との意見もあります。その一方で、まだまだ賃料の格差は解消の見込みがなく、また将来的にも圏央道や首都圏の交通網が整備されていく方向に進んでいくことから、港湾エリアに拠点を置く必要はないのではないかという意見があるのも事実です。今後は、港湾施設の利便性を高めることによって、いかに港湾施設の利用を増やしていけるかが課題になってくると思います。 一方で、2010年の羽田空港国際化という明るいトピックスもあります。これを見越して、ヤマトホールディングスが大田区の工場跡地に物流施設の開発を計画するなど、拠点確保に乗り出した企業もあります。今はまだ様子見の雰囲気が濃厚ですが、空港の国際化により貨物量の増加がどれだけ見込まれるかによって、大型物流施設の開発・供給も、活発になってくるのではないかと思われます。 投資家による物流施設の供給は、施設を利用する側にとっては選択肢が増えることを意味します。これまで自分たちで施設を作って荷主を呼び込んできた物流会社にとっても、投資家が供給する施設を利用しながら、限られた契約期間の中でうまく運営していくことができるようになってきています。大型物流施設が供給されることで、3PLの形態自体も、より荷主のニーズに合致した、効率的な物流形態へと進化していく可能性を秘めているのではないでしょうか。
『WAREHOUSE MARKET REPORT』にみるゾーン別賃貸条件
①横浜臨湾ゾーン | ||||
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平均募集賃料 | 07上半期 | 07下半期 | 08上半期 | 対前期比 |
倉庫・配送センター | 5,520円 | 5,570円 | 5,820円 | 4.5%円 |
事務所兼倉庫 | 5,830円 | 6,300円 | 6,170円 | -2.1%円 |
②神奈川県内陸ゾーン | ||||
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平均募集賃料 | 07上半期 | 07下半期 | 08上半期 | 対前期比 |
倉庫・配送センター | 7,480円 | 7,020円 | 6,730円 | -4.1% |
事務所兼倉庫 | 6,330円 | 6,220円 | 6,700円 | 7.7% |
③神奈川県内部ゾーン | ||||
---|---|---|---|---|
平均募集賃料 | 07上半期 | 07下半期 | 08上半期 | 対前期比 |
倉庫・配送センター | 4,530円 | 4,560円 | 4,340円 | -4.8% |
事務所兼倉庫 | 5,200円 | 5,130円 | 4,920円 | -4.1% |