コロナ禍において、在宅勤務者が増加しオフィスの出社率が低下したことにより、オフィス面積の縮小や、従業員数が増加してもオフィス面積は維持する企業が多く見られました。しかしながら最近では、新型コロナウイルス感染症が「第5類感染症」に指定されたことにより、リモートワークを推奨していた企業でも、オフィス出社を推奨するようになるケースが増えています。
そのような状況の中、当社では今後のオフィス増床(拡張)計画のご相談をいただく機会が増えております。「出社率が徐々に上がっているので、このままではオフィスがパンクしてしまう。」「急に社長からの全員出社命令がでたら社員が収まらない。」など、現場ではいよいよやってきた出社の波への対応に追われています。
ここではよくあるご相談をもとに、オフィス増床(拡張)計画においてのチェックポイントを整理したいと思います。
1. オフィスの増床とは
文字通り床を増やすことで、ここではオフィススペース(面積)の追加拡張を指します。
大きく分けて増床には、入居中のビル内に別区画を借りる館内(内部)増床や、別物件にスペースを設ける分室増床がありますが、近年、オフィスの貸し方借り方はさらに多様化しています。それではオフィス増床(拡張)計画の考え方について順序だてて整理していきましょう。
2. 稼働中オフィスの契約状況の把握
オフィスの増床をご検討される場合、まず、現在稼働中のオフィスの契約期間を確認しましょう。
例えば、契約更新が2年後に迫っている場合、移転計画が浮上する可能性があるかどうか、異なる契約期間のオフィスがあっても問題がないか、オフィスを統合する計画がないかなどを把握する必要があるでしょう。
近い将来、オフィスを移転する可能性が高いのであれば、初期費用を投じて新たに増床分の賃貸借契約を結び、資産(内装什器等)を持つべきか検討が重要になってきます。
もし、増床契約の直後に移転することとなった場合、新たに結んだ賃貸借契約の解約をしなければならない可能性もあるでしょう。その場合、契約の内容によっては解約金・違約金が発生する可能性もあり、無駄な投資となってしまうことも考えられます。
3. 増床を必要とする期間の把握
次に、増床するオフィスがどの程度の期間必要となるかを検討します。
仮に100人を収容するオフィスが不足していたとします。この100人分のスペースを200~300坪と単純計算して、一般的な定期借家契約3年で契約してよいでしょうか?
検討すべき要素は色々とありますが、事業の成長戦略や雇用計画、人員増減伴うプロジェクトなど視野にいれると、どの程度の規模がどのくらいの期間で必要になってくるのか見えてきます。
また、前項の稼働中オフィスの契約状況を合わせて考えたときに、近い将来、移転計画が浮上する可能性が高い場合、この期間は妥当でしょうか?
時間の制約や物理的なスペース不足への対応に追われる傾向にありますが、増床規模だけでなく、人員の増減見込み・継続性など複合的に検討し、増床を必要とする期間をできる限り把握した上で、計画性を持った判断が重要になります。
4. オフィスの選択肢を把握
オフィスには様々な種類や契約形態があります。どのようなオフィスが最適な選択になるかは、状況に応じて変化します。オフィスの選択肢ごとにメリット・デメリットを把握しましょう。
一般的な賃貸オフィス
館内(内部)増床
通常は、入居中のビルオーナーや管理会社に直接増床を打診するケースが多く見受けられます。入居中のビルに空室在庫があり、適正な賃料および賃貸条件での契約ができるのであれば、その流れで問題ありません。ただ、万が一、入居ビルはすでに満床との回答を受けた場合や、賃料・賃貸条件に不満を感じた場合は、当社のような不動産コンサルティング会社にご相談ください。一般には開示されることのない潜在的な退去情報の把握はもとより、タイミングが合えば、退去企業から家具や什器などを引き継ぎ、初期工事費のコスト削減を狙える居抜き情報のご提供が可能な場合があります。
館内(内部)増床のメリット
- 勤務地が変わらない
- すでに契約を締結しているため直接交渉しやすい
- 他の物件を探すよりスピーディーな拡張が可能
- 同一ビル内なのでコミュニケーションの分断が起きにくい
館内(内部)増床のデメリット
- ビル内に空室があることが大前提となる
- 適正なサイズとは限らない
分室拡張
近隣物件などに別途オフィスを借りる選択肢もあります。既存オフィスからの利便性はもちろんのこと、駅直結のランドマークビルなどに拡張オフィスを展開し、企業のイメージアップなどにつなげるケースもあります。
分室拡張のメリット
- 目的に合うスペースを確保しやすい
- 新たに事業や業務内容にマッチした立地を選択できる
分室拡張のデメリット
- 館内増床と比較してオフィスの新設にコストがかかる
- 既存オフィスと分室でのコミュニケーションの分断が起きやすい
- 入居審査や登記など手続きによる負担が増える
セットアップオフィス
家具・什器が備え付けの賃貸借契約オフィスです。すでにオフィス環境が整っているため、即入居や初期費用削減のメリットがある反面、オフィス環境を借主側で用意するケースと比較して、賃料が割高になる傾向があります。また、同じように家具・什器が備え付けてあるフレキシブルオフィスなどとは異なり、契約によっては原状回復が必要となるため、契約の際は確認が必要です。
セットアップオフィスのメリット
- 初期費用の削減が見込める
- スピーディーな入居に対応
- 家具・什器などのオフィス環境が整っている
セットアップオフィスのデメリット
- 賃料が割高となる傾向がある
- 原状回復などの負担が発生するケースが多い
居抜きオフィス
居抜きオフィスとは、オフィスを退去する企業から内装や設備を引き継いで入居することができる物件です。入居者は内装工事費用、退去者は原状回復費用の削減が可能など、入居者・退去者の双方にとって有益です。オフィスデザインや入退去のタイミングが合えば、メリットの高い選択といえます。退去者の退去スケジュールに合わせて情報が出回るため、特に居抜きでの契約を希望される場合は、居抜きのマーケット情報に精通した仲介会社に声をかけておくことも重要です。当社でも多くの居抜き情報を扱っていますが、当PROPERTY SEARCHサイトには公開できない情報が多く、非公開のまま終わるケースもあります。居抜き情報を逃さないためには、余裕を持ったご相談が重要になってきます。
居抜きオフィスのメリット
- 入居時の初期費用など削減が見込める
- 入居工事期間の短縮が可能
- すでにレイアウトが組まれているなど入居後の イメージがつきやすい
居抜きオフィスのデメリット
- 希望にマッチした物件を見つけることが難しい
- オフィスレイアウトを自由に設計できない
- 原状回復工事義務を承継する必要がある
フレキシブルオフィス
サービスオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなどの柔軟性の高いオフィスの総称を「フレキシブルオフィス」と言います。一般的なオフィスとの大きな違いとして、賃貸借契約ではなく運営会社とのサービス利用契約や施設利用契約(※契約によっては賃貸借契約になるケースもあります。)を締結するケースが主流となっていて契約期間の柔軟性が高いこと、什器や内装がすでに整備されているため契約からすぐに入居が可能なことなどが特徴です。
その分、長期の契約になればなるほど、通常の賃貸借契約オフィスよりもコスト高になる可能性もあります。契約期間が見えているケースや流動性を求めるケースではメリットのある選択と言えるでしょう。
一般的に、フレキシブルオフィスを利用するケースでの損益分岐点は12~18ヶ月という考え方があります。しかし、弊社事例の中では入居時の条件によっては36ヶ月未満であればメリットのある契約を結べることもしばしばあるため、フレキシブルオフィスの契約においても当社のような不動産コンサルティング会社に相談することをお勧めいたします。
フレキシブルオフィスのメリット
- 契約期間の柔軟性
- 初期費用の削減が見込める
- スピーディーな入居に対応
- 立地の良い物件が多い
- 家具・什器などのオフィス環境が整っている
- 入居企業間での交流や人脈形成をサポートする施設も存在する
フレキシブルオフィスのデメリット
- 長期契約では割高になる傾向がある
- 情報漏洩などに注意が必要
- 内装を自由に変更できない
5. まとめ
このように、増床(拡張)と一言で言っても、企業がおかれている状況により選択肢も様々です。まずは3年程度先までのオフィス計画を洗い出し、状況を把握しながら進めることが重要です。
CBREが提供するオフィスコンサルティング業務
CBREは事業用不動産に関する幅広いサービスを展開しています。中でも、オフィスコンサルティング業務では、物件紹介と仲介がメインとなる一般的な賃貸仲介会社とは異なり、オフィス戦略策定、不動産取引、移転・内装工事などに関するありとあらゆる疑問にお答えいたします。
- 移転の予定はないが近隣のマーケット状況を把握しておきたい
- うちのオフィスはコスト削減できるか?
- これからの適正面積やオフィスの役割って・・・他社はどうしているだろう?
- 空室率は上昇しているようだけど・・・入居ビルの賃料は適正なのだろうか?
- 次回の契約更新に向けて、いつから準備をすればいいの?また有利に交渉を進めるには?など
オフィスに関するご質問にはもとより、課題解決においてもプロフェッショナルな視点でお客様の状況を整理し、その時々での有効な選択肢のご提案が可能です。
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