金沢の賃貸オフィスマーケットの構成
金沢の賃貸オフィス市場は、オフィスビルと「戸建て」物件によって構成されている。
オフィスビルはもちろん、設備や管理の整った施設で業務を行えるのが魅力である。一方、「戸建て」物件に需要があるのには、車を使用し、広域に営業活動する金沢の事業所特有の事情がある。
この「戸建て」物件は、富山県、福井県への移動の利便性に加え、石川県内の白山市や野々市市にもアクセスの良い金沢西インターチェンジ周辺と、駅西側から北陸自動車道周辺の地域に集積している(下記エリア地図参照)。また倉庫や作業場などの諸施設の併設が、オフィスビルに入居する場合に比べて容易に、しかも安価に行えることも、一定の需要がある要因となっている。
テナントのニーズの変化により、「戸建て」からオフィスビルへの移転や、その逆方向の移転も行われる。これも都心部から近い距離に、オフィスビルゾーンと「戸建て」エリアが混在している金沢の特徴と言えるだろう。
賃貸オフィスビルマーケット
金沢市オフィスマーケットエリアの賃貸オフィスビルの貸室総面積は、およそ5万2,000坪(CBRE)。南町~香林坊~片町に至る百万石通りに沿った地域と、金沢駅周辺から石川県庁までのエリアで構成されている。
オフィス需要は堅調である。業績向上による企業のオフィス拡張傾向に、新幹線の開業効果も加わりニーズは多い。また、一部の「戸建て」入居企業からも、オフィスビルへの入居を模索する向きもある。こうした企業は、金沢駅周辺のオフィスビルへの入居を求めるケースが多い。
金沢でのオフィスビルの新規供給はわずかであり、2015年も含め今後竣工予定のオフィスビルは把握されていない。
このためマーケット全体として空室は少なくなっている。金沢市全体(オールグレード)の空室率は、直近の2015年第4四半期で前年同期比2.6ポイントマイナスの11.2%、大型ビルに限定すると4.0ポイントと大幅に低下し5.1%となっている。
賃料水準は上昇傾向にあり、金沢市大型ビルの想定成約賃料(共益費込)は前年同期比で15.2%と大きく上昇している。当面ビル供給の動きも無いことから、この傾向は今後も続くと思われる。
賃貸「戸建て」マーケット
「戸建て」物件には、要望に合わせて貸主が建築し賃貸する「オーダーリース」と呼ばれるものと、「オーダーリース」物件のテナント退去後に新たに賃貸するものや自社の遊休部分を賃貸する「既存戸建て」物件の二つの形態に分けられる。
「オーダーリース」物件では建物面積ベースで賃料が設定され、余剰土地に駐車場を付帯するのが一般的である。賃料水準は、「オーダーリース」では概ね坪当たり7,000~8,000円程度。「既存戸建て」の場合は坪当たり5,000円前後の水準であるが、どちらも物件の状況により水準は異なる。
契約期間は「オーダーリース」で10~15年程度が基本であるが、規模の大小や特殊施設の設置などにより期間が異なる。契約は定期借家契約ではなく普通借家契約で行うケースがほとんど。事業者の望む立地にオフィスを構えることができるため、「戸建て」物件は利便性が高いと言える。
建物の老朽化や、物流業務をアウトソースしたことで倉庫施設が不要になり、オフィスビルに移転する企業が見られる一方で、営業効率を高めるためにオフィスビルから「オーダーリース」や「既存戸建て」物件へ移転するケースもあるなど、オフィスビルと「戸建て」のいずれもが移転の選択肢となっている。金沢のオフィスマーケットが、ビルと「戸建て」の両者で成り立っている所以である。