長年温めてきた都心商業事業を積極化
地域・テナントとのwin-winの関係構築こそ商業店舗施設の開発・運営の秘訣
三井不動産株式会社
商業施設本部 アーバン事業部長 石神 裕之 氏
商業施設本部 アーバン事業部 事業推進グループ主事 岩下 城爾 氏
近年、銀座進出にはずみがついた背景とは?
日本橋に本拠を置く当社は、従来から日本橋の再生と、日本橋から汐留に至るまでの中央通りを機軸にした、周辺地域の開発に力を入れてきました。その中でも、商業の中心地である銀座については、以前から注目してきましたし、特に重点エリアとして位置づけています。
当社は、銀座において、2002年開業の「銀座並木通りビル」を皮切りに、いくつかのプロジェクトを手がけてきました。プロジェクトとして顕在化したのは最近のことですが、実はそれ以前からも、開発に向けた動きを進めてきました。一例として、昨年11月に「銀座三井ビルディング」(上層部は「三井ガーデンホテル銀座」)がオープンしましたが、もともとは当社が保有していた「銀座八丁目ビルディング」(テナントは「銀座第一ホテル」)で、かなり以前から建て替え計画を進めていたものなのです。
最近になって当社が本格的に銀座に進出するようになった背景には、一つには「都市中心部の商業」に着目した開発を積極的に推し進めていくよう、2000年に専門部署を発足させたことが挙げられます。これは、従来のような商業専用ビルの開発に加えて、商業店舗とオフィスの機能を併せ持った複合ビルの開発にも力を入れていこうというものです。「日本橋一丁目ビルディング」内にある「コレド日本橋」などはその好例ですが、今後は日本橋や銀座に限らず、このような都心型商業施設の開発を積極的に進めていきたいと考えています。
もう一つ、不動産開発に金融資本市場からの資金が投入されるようになったことも、銀座などでの不動産開発を推進する一因になっていると思います。これまでの不動産事業は、開発会社が銀行からの借り入れにより、不動産を購入し、開発・所有することを前提としていたため、銀座で開発を行う場合、その高い地価が大きなネックとなっていました。ところが、最近では金融と不動産の融合が進み、リスクとリターンに応じた投資家の資金により、自社で100%所有しなくても不動産開発が可能になりました。「銀座並木通りビル」の開発は、まさにこの仕組みを使っており、当社自体は建物を所有しない代わりに、開発の総合企画業務(デベロップメント・マネジメント業務)や竣工後の建物の運営管理(プロパティ・マネジメント業務)を行い、また三井不動産投資顧問が、不動産運用業務(アセット・マネジメント業務)を行っています。
もちろん、投資家の資金を活用した開発とはいえ、当社が責任を持って開発事業および竣工後の施設運営を行っていきますので、地元周辺の方々には、ご安心いただけるものと考えています。
徹底したMD戦略で商業施設を開発・運営
当社が銀座で手がけてきた主な開発プロジェクトには、「銀座並木通りビル」「交詢ビル」「ZOE(ゾーエ)銀座」などがありますが、どの開発も、おかげさまで入居していただいたテナントの売上は順調です。以降、地元不動産所有者の方々から、開発のご相談をいただくことも多くなりましたし、また、銀座という街のポテンシャルの高さもひしひしと実感しています。
銀座での開発が順調にいっている理由は、一つには、開発地が銀座の中でも良い立地であったこと。もう一つは、テナントの選定を含めた施設全体のMD(マーチャンダイジング)が、お客さまに満足いただけるものになっているからではないでしょうか。銀座は最先端のファッションやサービスが集まる場所ですから、テナント誘致においても、新しい感性を持った"オンリーワン"の店に入居していただきたいと考えています。実際にこれらの施設では、時代を先取りしたMDをご提案できたのではないかと自負しています。
また、商業施設がうまく運営されるためには、当社とテナント各社が、共に成長できるwin-winの関係であることが重要になってきます。コストセンターの色彩が強いオフィスとは異なり、店舗というのは、商業において売上を上げるための重要なプロフィットセンターです。その店舗を魅力ある場所にするためにも、テナント誘致だけでなく、竣工後も運営管理という立場で、各店とのコミュニケーションを通じて新しいものを提案したり、新しい業態を一緒に作り上げていくことが重要だと感じています。
ひとたび入居テナントさんの商売が成功すれば、当社が手がける開発事業に対してさらに信頼を寄せていただけるようになります。当社は郊外のショッピングセンターやアウトレット事業も行っていますので、将来また違った業態での出店をお手伝いする機会に恵まれるなど、スパイラル的に新たな事業に繋がっていくのです。
先ほど「銀座におけるMD戦略では、"オンリーワン"の店がキーポイントだ」と述べましたが、逆に言えばこういったお店とは、当社もそれまで、あまりお付き合いがないわけです。また、お店にしても、複合ビルのテナントとしての出店に慣れておらず、そんな中での関係構築には、いつもとは違った苦労があります。しかし、そこでお互いの信頼関係を築くことができれば、連鎖的にビジネスが広がる可能性があるのです。当社の銀座でのビジネスには、このような意味も含まれていると考えています。
進行中の"Gプロジェクト"はこれまでとは違った魅力で
現在、富士写真フイルム株式会社(以下、富士フイルム)と共同で開発を進めているのが、銀座二丁目の並木通りに面した商業施設、仮称「Gプロジェクト」です。もともと富士フイルム本社があった場所でしたが、近ごろは、駐車場として利用されていた期間が長く、地元からは早期開発を望む声が同社に寄せられていたようです。富士フイルムさんとしても、機会があれば地域に貢献したいと考えておられたようで、私どもにご相談をいただきました。それが1年半前のことです。近年、高級ブランドが盛んに進出しているエリアに位置していることもあり、その土地の特性に合った商業施設の開発計画をご提案し、この1月に着工の運びとなりました。
プロジェクトのスキームを簡単に申し上げれば、富士フイルムが土地を所有し、事業主体となって開発を進め、当社が開発計画の立案、許認可取得、テナントリーシング、竣工後の運営管理などのマネジメント業務を担当しています。
プロジェクト推進に当たっては、商業施設の場合は基本計画の立案にかなりの時間を要します。まず重要なのが、外観デザインです。オフィスビルと違い見た目の印象が大事なので、そのデザインには特に力を入れています。もう一つは、施設の中身をどうするか。施設のコンセプトを固め、施設内の構成を決めていきます。ここで重要なことは、お客さまがなぜその施設に足を運ぶのか、施設内でどう行動し、どのように時間を過ごすのかにまで考えを及ぼすことです。それに基づいて、何階から何階までを飲食にするのか、あるいは物販にするのか、レイアウト構成や部屋の並び、エレベータの台数など建物のハード部分を決めていきます。どちらかというと、住宅プランニングに近い作業だと言えるかもしれません。
また、商業施設は立地によってもその成否が左右されますから、これらの基本計画に先立って「場所」に関する数多くの調査を行います。この部分は開発のノウハウでもあるので詳しくは申し上げられませんが、一般的なものとしては、通行量調査、乗降客調査、競合店や近隣施設の状況の調査などです。建物が複数の道路に面している場合は、軸足をどちらに置くかも調査によって割り出します。
今回の「Gプロジェクト」は、これまで行った銀座の3つの開発とは、また大きく違ったコンセプトにしています。銀座ですから特長を明確にしないと人が集まりません。そこで、ターゲットを30代中盤から40代の大人の男女とした、個性的で話題性のある粋な空間の提供を目指しています。
テナントは、アパレルや飲食、サービス関連など40店舗を予定しています。これまでの当社の開発案件と比べると、店舗当たりの面積が小さいとの印象があるかもしれませんが、"賑わい"を演出するためにあえてそのようにしています。テナントはそれぞれが個性的で魅力的であることはもちろん、お客さまが全館を通して満足していただけるようなMDを実施したいと考えています。
テナントは現在交渉中ですが、目玉として最上階に「コンランレストラン(仮称)」の入居が決定しています。世界的に有名な英国のインテリアデザイナーであるテレンス・コンラン卿がプロデュースし、日本の高級レストラングループ「ひらまつ」が運営するアジア初のレストランとなり、話題になるのではと期待しています。
今後も銀座での開発事業を計画
今後、有楽町駅前に丸井百貨店が開業し、銀座マロニエ通りの開発が進めば、銀座界隈はさらに賑わいを増していくでしょう。また、銀座自体が一つの大きなショッピングセンターのようなものですから、銀座の各所で開発が進み魅力的なテナントが集まれば、銀座により多くのお客さまが集まるようになります。他のデベロッパーの進出は、ライバルというよりむしろ歓迎しています。当社としても、今回のGプロジェクトで終了ということではもちろんなく、今後いくつかの開発計画を進めていく予定となっています。
エリア全体で相乗効果が生まれ、銀座という街がより魅力的な街になるよう、私どもとしても、ぜひ貢献していきたいと考えています。