2011年は年初に起きた自然災害を乗り越えつつも、終盤にかけて欧米の財政問題が複雑な様相を呈し、世界経済に影を落とした。 しかし一方、優良物流施設は世界各地で希少性を発揮し、中でも東京の市場に内外の投資家の注目が寄せられている。 本レポートは、CBRE Global Industrial Marketview に取り上げられた国際的な物流施設の近年の潮流と動向を東京の現状と対比しながら、グローバル市場における東京の位置づけとそれを踏まえた投資家の動きについて考察するものである。
シービーアールイー リサーチ チーフアナリスト
水登朱美
グローバルな物流施設市場の動向
- 2011年後半に、世界の物流は、東日本大震災の影響により生じたグローバルなサプライチェーンの混乱から概ね正常な状態へ持ち直した。年ベースの工業生産は2010年の水準にはかなかったものの好調を維持した。
- 欧州問題等マクロ経済のリスク要因が見られる中世界の物流施設の賃貸需要は2011年後半も堅調に推移している。
- 世界金融危機以来大型の開発案件が極端に減少し、好立地の優良物流施設を求め積極的な展開を行う3PL事業者や流通小売企業のニーズに見合った物件は各地で品薄状態である。2011年第3四半期のCBREグローバル物流施設賃料インデックスは、前期比+0.5%、前年同期比では1.7%の上昇となった。
- 今後も需要は引き続き堅調に推移し、とりわけアジア太平洋およびラテンアメリカの市場ではその傾向が顕著となる。この結果、2012年にも引き続きグローバル物流施設賃料インデックスには上昇圧力がかかるものと予想される。
- 新規供給の傾向として、主要国ではビルド・トゥ・スーツ型の開発が多数を占める状態が続く。欧州の債務問題の深刻度にもよるが、融資の引き締め傾向が続いており、投資家はマルチテナント型施設開発の再開のタイミングを慎重に検討している。
注目される東京の物流施設市場
- 翻って、日本の物流施設市場では、震災直後に緊急避難的な需要が急増し、首都圏では空室率が大幅に改善している。こうした緊急移転の動きは夏にかけ沈静化し、物流市場構造に与える影響は限定的であったものの、これを契機に、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の見直しや危機管理体制の強化に向けた高機能物流施設の潜在需要が顕在化してきている。
- 2010年以降、新規供給がほとんどストップする一方で、首都圏の物流のアウトソーシング化が進み、物流の効率化を背景とした大型施設需要が高まっている。こうした中で、現在は限られた募集に対して、複数の引き合いが見られる状況にあり、品薄感が強まっている。
- 震災前後を通じ、東京は優良物流施設立地として世界賃料トップランクをキープしており、賃料水準は安定的に推移している。
- 東京では、震災後のBCPを満たす物流施設への需要の顕在化と、従来からの3PL事業者のニーズの増加があいまって、いち早く開発投資の機運が高まっており、国内外の投資家の注目が集中して活況を呈している。