今後も構造的に上がり続ける建築コスト。打開策は早めのプランニングとプロのサポート。
ターナー&タウンゼント株式会社
プロジェクトマネジメント プロジェクトディレクター
一級建築士/一級建築施工管理技士
岩谷 紘之 氏
建築プロジェクトの減少とコスト上昇の謎
近年、建築費の高騰により、予定の延期や中止をするプロジェクトが相次いでいます。ではなぜ、急速に高騰しているのでしょうか。弘文社 アーキブックコスト事務局が2025年4月に発表した建設市場レポート「2030年までの建築費の動向予測」に基づいて、その原因を探ってみることにします。
まず、直近の建築と土木の需要内訳を見てみると、2024年度における土木を除いた建築需要は、民間が62%、公共が11%の計73%を占めています。また、そのうち非住宅、つまり事業用の建設は41%の4187万㎡となっています。非住宅建設需要は、バブル期の1990年をピークとして多少の上昇はあるものの、おおむね減少傾向にあります。着工床面積を見ると、近年では2021年に若干の増加が見られましたが、これはコロナショックによる一時的な反動、および東京オリンピックに向けて公共事業優先で進められていた建築が民間に解禁され、民間の大型プロジェクトが一気に動き出したことが原因と予想できます。ですがその後は下降し、2024年の約4200万㎡から、2030年には約3600万㎡まで減少するとの予測が立てられています〔図1〕。用途別で見ると、事業用不動産、オフィスに関しては2020年に一時的に供給量が増加しましたがその後着工床面積は減少する予測です。また同じく事業用の工場や倉庫に関しても、2022年には着工床面積が伸びていますが、2024年にかけては減っており、エリアによって傾向は異なるものの、全体的には今後も減少傾向は続くと思われます。
一方、宿泊施設に関しては、コロナ禍により2019年から2020年、2021年と激減しましたが、最近は、円安と相まってインバウンドが以前にもまして増加していることから、着工床面積は増加傾向にあります。また、近年のAIの進展もあり、半導体工場やデータセンター需要は非常に高まっており、2023年から2028年にかけて1.4倍程度総床面積が増床すると見込まれています。
アーキブックコストとは
アーキブックコストは、概算建設費を簡単に把握するクラウドサービスです。類似案件や市場相場との比較など、実務レベルの概算レポートをすぐに作成することができ、また、建設市場の動向予測レポートに基づいた将来のインフレリスクが自動で設定されるなど、開発投資に関する検討・説明の場で、広く活用されています。
詳細はこちらのURLよりご確認ください:https://archibookcost.com/
資材と労務、二つのコストが建設費の急激な高騰の元凶
このように全体的な建築プロジェクトが減少するということは、一見全体的な建築需要が低下しているように見え、需要と供給の関係からすると建築コストは低下してもおかしくありません。それにも関わらず実際の建築コストは上昇しています。そこで、建築費を構成する建設資材の価格、労務費(人件費)の単価はどれくらい上昇しているかを見てみましょう〔図2・図3〕。
まずは建設資材ですが、ここには示していませんが(一社)日本建設業連合会発表の品目別資材高騰の資料によると、軒並み値上がりしているのがわかります。特に板ガラスの83%やアルミ地金の82%、600Vビニル絶縁電線の80%など約2倍に上昇。建設において必ず必要となる資材で、5割以上の値上がり率を示す資材が数多く見られます。しかも驚くべきは、この数値が2021年1月期と、2025年4月期の比較であること。つまりわずか4年でこれだけ高騰している点です。
資材コストはここ最近、上昇傾向に落ち着きが見られていますが、長期化する円安や、ウクライナとロシアの戦争による原油高に起因した物流コストの上昇、さらにはエネルギー価格の上昇が、結果として資材コストを今後も継続して押し上げると見られています。
続いては労務コストですが、2021年との比較でみると、こちらについても約2~3割程度、上昇しています。特に職種別ではダクト工の32.7%、電工の27.8%などの上がり幅が大きくなっています。彼らは高度な職種であり、その分、育成が難しいと言われています。さらにここにきて、半導体やデータセンター建設の需要が増えていることで、人手不足が顕著に表れていると言えるでしょう。
それ以外の、鉄筋工、型枠工や鉄骨鳶なども20%前後の上昇と、設備職に次ぐ上昇傾向が見られます。そのほかでは交通誘導員に関しても、工事に加えてイベント関連の需要が増加していることから、30.3%の上昇となっています。
今後の労務単価の動向ですが、これからも上昇が予想されます。その理由として、職人全体の就業者数の減少、および高齢化が挙げら れます。2024年における建設業就業者数は、約476万人ですが、60歳以上が123万人で全体の約26%を占めており、次いで50代の120万人となり、10代20代の合計56万人の約2倍強です。現状ですでに総数が足りず、完全に 売り手市場になっているうえ、今後、50代・60代の働き手の多くが抜けていくことを考えると、この傾向はさらに高まるでしょう〔図4〕。
国交省は若い世代の就業者数を増加させるために、働き方改革として2024年から原則的に4週8閉所の取り組みを強化しています。建設現場の閉所日が増えた分、同じ工事においても昔より工期が1.2倍程度長くかかっており、ゼネコンが年間で対応できる現場の数が少なくなっているのが現実です。
また国交省と建設業主要4団体が、2025年におおむね6%の賃金引き上げを目指すことを申し合わせました。2021年3月から見て49ヶ月で22.9%。今年1年を見ただけでも6%増となっています。また近年では技能者のレベルが明瞭化され、資格や経験を明確に評価するような建設キャリアアップシステムも国交省によって導入されました。これらの流れはいずれも労務単価のアップにつながるものであり、下がる要因は考えられません。
建築コストは、2011年を100とすると、 2020年は121、2024年が153であり、2020年からわずか5年間で26%増となっています。さらに5年後の2030年は181と予測されており、2020年と比較して約49%増に跳ね上がるという予測です。実際には昨今の激動する世界情勢の影響で、上下動の幅が広がる可能性を秘めているとはいえ、資材や労務のコストを考えると大幅に下がっていくことはまず考えにくいわけで、今後も上昇はほぼ間違いないと言えるでしょう〔図5〕。
我慢の限界を迎えたゼネコン、物価上昇スライドで建築費高騰
こうしたコストを管理しているゼネコンの動きも見てみましょう。建築費は2010年頃から上昇し始めていますが、比較的緩やかなものでした。というのも、以前はゼネコンの利益率も高く、多少の物価上昇についてはゼネコン内にて吸収することができていました。しかし2020年あたりから急激に資材価格が上昇し始めてからは、ゼネコンの利益率は大幅に下がり始めています。
また、2021年頃を境にサブコンの利益率がゼネコンの利益率を上回り、2022年にはゼネコンに先んじてサブコンの利益率が上昇に転じています。これはサブコンの需要が非常に高まったことを示しており、今までゼネコンの下請けとしてコントロールされていたサブコンのコストが急激に高くなっていることを示唆しています〔図6〕。
そこでいよいよ値上がり幅を吸収できなくなったゼネコンは、クライアントに物価上昇を認めてもらうべく交渉を始めました。契約書に、「物価上昇については協議をするものとする」といった内容が、記載されるようになりました。これを後押しするように国交省は2022年5月、物価上昇のスライドに関してはきちんと協議をするよう通達を出しました。さらにゼネコンは、「この申し出に了承がもらえないなら、工事に応じない」とするスタンスを強く打ち出し、クライアント側も次第に交渉に応じるようになったのです〔図7〕。さらに最近では、そもそも競争入札には応じず、特命のみ受託する方針のゼネコンも多くなってきています。これにより、今後はゼネコンの利益率も上昇することが予測されます。
つまり建築コストはさらに上がるわけで、建物を新築したいオーナーにとっては、これまで以上に多くの予算が必要になります。その結果、テナントとして入居する企業において、今後竣工する不動産の賃料の上昇につながることは明白でしょう。
リニューアル工事の増加で設備関連価格も想定外の高値
ここまでは新築の話を中心としてきましたが、近年ではオフィスビルにおいて、もともとのビルを改修して活用するリニューアルが増加しています。リニューアル工事でメインとなるのは設備機器の更新です。エレベータや空調、照明などの設備をアップデートするわけですが、その価格も上昇しています。
2020年12月を基準に2023年9月までの設備機器の価格動向を見ると、例えば変電設備では64%、配電盤などの盤類は41%、エレベータは49%上昇。さらに2024年9月までを見ると変電設備が89%上昇、盤類が72%上昇、エレベータは83%上昇ですから、わずか1年強でそれぞれ25%、31%、 34%も価格が上昇しています。先ほどご紹介した建築資材よりも、さらに大幅な値上げが行われているのです。
しかも製造も人手不足の影響により、発注しても納期が1年以上先といったことがざらにあります。したがって、こうした設備関連の工事では、コストやスケジュールの管理において大きなインパクトを与える分野になっています。
テナントにおけるオフィス移転でも、照明機器の入れ替えなどはあるでしょうし、場合によっては変電設備や盤の増設が必要になるでしょう。これらの工事は新築のケースと同じ職人が関わるものですので、その場合も同様にコストのインパクトばかりでなく、工期に関しても希望通りにはいかないことが多いと思われます。
予想できない未曽有の事態、プロジェクト成功への対抗策は?
これまで見てきた通り、今後も建築費は横ばいでも下落でもなく、上昇することは避けられないと考えられます。かつては一時的な需給関係の変化から価格が下落したこともありました。しかし、今回の高騰は急激かつ建設業界における構造的な問題も原因となっているため、今後、建築費が下がることはないと思われます。
さらに言うならば、過去のデータがほとんど役に立たない状況ですから、どんな要因で何を修正しなければならないか、容易にはつかめないのが現状です。昨今、トランプ関税の話題が絶えませんが、第一期の時と同様、資材などの価格上昇の要因の一つになり得るでしょう。
とは言え、オフィスビルの建設やリニューアル、オフィス移転工事といったプロジェクトをすべて中止にするわけにはいきません。そこで打つべき手として第一に考えるべきは、詳細な計画をできるだけ早く明確にすることです。失敗するプロジェクトは最初の計画が曖昧で、仕様も決めないまま「とりあえずこれくらいの予算で…」といった不明確な場合が多く見受けられます。外的要因によるコスト変動はコントロールできませんから、何をしたいのか、どんな仕様でいつまでに完結するかを、できるだけ早く確定させることが重要なポイントとなります。
コスト変動の予測が難しい中、これを実現するためには、より専門性の高いプロのスキルを活用して、見えてくる課題を早い段階で明確化し、適切なプロセスで一つひとつ解決していくこと。それがスケジュールやコストをコントロールする、一番の近道と言えるでしょう。
ターナー&タウンゼント
ターナー&タウンゼントは、60ヶ国以上に22,000人以上の従業員を擁するグローバルなプロフェッショナルサービス企業です。不動産、インフラ、エネルギー、天然資源分野のクライアントと連携し、世界中の市場において、大規模プログラム、プロジェクト、コストおよびコマーシャルマネジメント、ネットゼロおよびデジタルソリューションを専門としています。世界最大の事業用不動産サービスおよび投資会社であるCBREグループが株式の過半数を所有しています。
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