「物流従事者は、ホントに物流のプロなのか?」──なんとも挑戦的な問いかけですね。
ここ数年、メーカー、小売、卸などの荷主から、物流企業に対する不満の声がよく聞かれるようになってきたように感じます。
「ウチの製品を運んでくれてる運送会社なんだけどさ…。『物流改善につながる提案をして欲しい』ってお願いしても、なんにも提案してくれないんだよね。値上げ要請のときは、元気なんだけどさぁ」なんて愚痴を、先日も某所で聞きました。
筆者は、「物流のプロ」の定義、とりわけ荷主が求める「物流のプロ」が変わりつつあると考えています。
Just in timeに応えられないメーカー
その部品メーカー(以下、A社とします)は、ほとほと困り果てていました。
A社は、顧客が実施するJust in time※に従い、一日2回の納品を求められていました。しかし、A社と付き合いのある運送会社は、一日2回の、しかも時間指定のある納品に難色を示していました。
「やれないことはないですが、運賃は上げてもらえないとね」と、運送会社は、現在の2倍の運賃を要求してきました。
それでなくとも、部品メーカーは顧客から厳しい値下げ要求にさらされ続けています。
複数回の納品をしても、納品数量が大きく増えるわけではありません。もともと利益が少ないところに、2倍の運賃を要求されたら赤字に転じかねません。
A社は、運送会社が2倍の運賃を要求してきたことに不満と不信を感じていました。 2倍ということは、トラックを2台仕立てるということでしょう。貨物量がほぼ変わらないのに、2台分の運賃を要求されてはたまったものではありません。
A社の競合他社は、以前から一日2回の納品を行ってきました。同じような部品を作り、同じような価格で販売しているわけですから、利益率だって同じくらいのはずです。ということは、競合他社が2倍の運賃を支払っているとは、とても思えません。
「競合他社の貨物を運んでいる運送会社は、一日2回の納品を適正な運賃で行うべく、配車計画などで工夫しているはずなんです。なぜ、ウチに出入りしている運送会社は、そういった工夫をしてくれないのか...?」と、A社の物流担当者は困惑していました。
「だったら、その運送会社との取引を切ったらどうですか?」、そう言った筆者に、物流担当者が苦笑いとともに応えた言葉を、今でも覚えています。
「ええ、切れるんだったら切りたいです。でも、当社はその運送会社に出資しているので関係を切ることはできないんですよ。
なぜ荷主であり、親会社でもある当社の切実な悩みに対し、物流のプロとして適切なアドバイスすらできないような運送会社に、なぜウチの経営陣は出資したのでしょうね...」
※Just in time
トヨタ生産方式における施策の一つで、必要なときに必要なだけ対象となる部品を供給することで、在庫金額の圧縮を図る方法。頭文字を取って「JIT」とも呼ばれる。 Just in timeを要求される部品メーカーの側は、複数回のデリバリーに対応することや、十分な在庫を保有することを強いられるなどの問題も指摘されている。
「プロフェッショナル」の定義とは
「プロフェッショナル:それを職業としておこなうようす。職業的。プロ」 (三省堂国語辞典より)
辞書にはこのように書かれています。ということは、その仕事に従事してさえいれば、プロとして認められることになります。
「名選手名コーチにあらず」という言葉があります。
優れた成績をあげたスポーツ選手が、必ずしも良い指導者になれるわけではないことを、私たちは経験的に知っています。理由はいろいろとあるのでしょうが、特に天才的な才能を持った名選手は、自分自身の経験から得たノウハウや知識を、第三者に伝わる形で言語化するのが苦手なケースもあるでしょう。
ビジネスにおいても同じです。
業務を遂行できることと、その業務で得た知見をもとに、第三者に対して適切なアドバイスをできるかどうかというのは、まったく別物です。
先のエピソードにおいて、A社が欲した物流のプロとは、物流従事者自らが行ってきた過去の物流業務から得た知見を活かし、顧客である荷主(A社)の物流課題解決に協力してくれる人(企業)でした。
しかし、物流業務を行い、現場を知っているからと言って、第三者に適切なアドバイスをできるとは限りません。
今求められる「物流のプロ」とは
「物流企業の価値って、つまるところは荷主のわがままに対し、どれだけ応えられるかどうかだろう?」──これは、ある中堅どころの物流企業の社長に言われた言葉です。
これまで荷主は自らの都合を、運送会社、倉庫会社などの物流企業に押し付けてきました。しかも無償で。
「不満があるんですね。だったら、他の会社に頼むからいいですよ」、こう言われてしまえば、立場の弱い運送会社・倉庫会社は、ぐうの音も出ません。
運送会社であれば、時間指定や手積み手卸しなど。倉庫会社であれば、営業時間外の入出庫や、ロットナンバー指定での在庫管理など。
もっと単純な話として、物流改善と称した一方的な買い叩きなどは、優越的な地位を乱用した荷主側のわがままの最たるものでしょう。
ところが、時代が変わりました。
トラックドライバーの人手不足などの理由により、物流企業側も荷主のわがままに対し、対応することが難しくなってきました。
ドライバー不足や物流コストインフレなどに起因する物流危機が叫ばれる今、物流に関わるありとあらゆる仕組みを改善・改革できる「物流のプロ」が求められるようになったのです。
荷主側でも、買い叩きなどによる単純なコスト削減ではなく、サプライチェーンの見直しによる構造的な物流改善や、本質的な意味で顧客の価値向上につながる物流サービスの創出などが求められるようになってきました。
とは言え、何十年もの間、買い叩きしかしてこなかった荷主や、買い叩かれ続けてきた物流企業の中には、目先のことで精一杯だったために、改善、改革を実現するような知見を求められたところで 困ってしまう企業もあるでしょうね。
ドライバー不足や物流コストインフレなどに起因する物流危機が叫ばれる今、物流に関わるありとあらゆる仕組みを改善・改革できる「物流のプロ」が求められるようになったのです。
以下、A社のエピソードにおける余談です。
物流業界に限った話ではないのですが、過去に買い叩かれ続けてきた立場の会社は、顧客から何か要求を受けると、「また買い叩きか、もしくは過剰要求だろう?」と条件反射のように思いこんでしまうことがあります。
過去にはA社も、当の運送会社に対し、恥知らずな運賃の値下げ要求や、時間指定、手積み手卸し、棚入れ等付帯作業のタダ働きを強いてきたことがあったのではないかと、筆者は考えています。
一度、そういう関係を強いてしまうと、なかなか関係改善は難しいですよ。
荷主企業の物流担当者は、何年かごとに交代するでしょうが、運送会社の社長や配車担当者などは、何十年も荷主とのカウンターパートナーを務めているケースがあります。そうなると、過去、荷主側が行った過剰要求(と、あえて言い切りましょう)は記憶に残っていますからね。
筆者がお会いした当時のA社の物流担当者は、本気で悩み、本気で運送会社にアドバイスを求めていましたが、運送会社側はそのように受け取らなかったのかもしれません。
一度、力押しで過剰要求を飲まされた運送会社と、それを強いた荷主の間で、ホントの物流改善(構造改革的な物流改善)を目指していこうというのは、気持ちの部分で難しいこともあるのです。
CBREが提供する「物流改善・物流改革のプロ集団」ロジスティクス・アドバイザリーとは
物流改善・物流改革は、メーカー、小売、卸など、荷主サイドの企業にとって、重要な経営課題となりつつあります。
トラックドライバー不足などに起因する物流危機といったネガティブな要素もあります。一方で別の味方をすれば、物流で強みを発揮できれば、競合他社との差別化を実現できるという、ポジティブな要素として捉えることも可能です。
物流改善・物流改革にはノウハウが必要です。
自社人材、もしくは既に取引のある運送会社、倉庫会社などとともに、物流改善・物流改革を進めることができればベストではありますが、それが難しいことは、既に述べたとおりです。
だからこそ、コンサルタントなどに知恵とアドバイスを求めるわけですが、これもまた悩ましいところで...
世の中には、たくさんのコンサルティング会社がありますので、今度はどこに相談したものか、悩んでしまうわけです。
さて、ここからはCBREの話です。
CBREでは、ロジスティクス・アドバイザリーなるサービスを提供しています。本稿で課題としてきた、物流課題を論理的に分析し、悩む皆さまに対し、提供可能な知見を備え、物流改善・物流改革の遂行をサポートできる人材を用意しているわけです。
筆者が、ロジスティクス・アドバイザリーについて興味深く感じるポイントは以下です。
ご存知のとおり、CBREは不動産、とりわけ物流不動産ビジネスに精通した会社です。 その経験と実績を活かし、物流不動産の観点からコンサルティングを行うとアピールする姿勢は、とても好感が持てますし、かつ現実的だと感じます。
逆に言えば、「なんでもやりますよ」「どんな課題でもどんと来いです!」的なアピールをするコンサルティング会社は…、少なくとも筆者は、あまり好感は感じません。
「なんでもできる」というのは、「何にもできない」ことと同じです。自社の強みを客観的にアピールできないコンサルティング会社に、他社の課題抽出、分析、改善・改革の提案などができるわけがないと感じてしまうのは、筆者だけでしょうか。
コンサルテーションの軸となる、自社の強みが何なのか?──言われてみれば、これをアピールするのって当然な気がするんですけど、意外とアピール(それも分かりやすく端的に)しているコンサルティング会社って少ないです。
物流危機が叫ばれる今、物流業務に対する知見を備え、物流改善・物流改革を遂行できる「物流のプロ」が求められているものの、その絶対数が足りていません。
「じゃあ、そういった『物流のプロ』をどうやって確保、もしくは見つけるの?」っていうのは、とても悩ましいところです。
その点、CBREのロジスティクス・アドバイザリーって興味深いです。
言ってみれば物流不動産プレイヤーって、俯瞰的に荷主、物流企業双方の経営やら実業を網羅的に目にしてきたわけですから。むしろ、現場を知っているがゆえに視野が狭くなりがちな物流企業よりも、相談をする相手としては適切かもしれませんよ。
「物流改善・物流改革をしたいけれども、誰に相談したら良いのかわからない」といった人は、CBREに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
執筆・物流ジャーナリスト 坂田良平