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ワークプレイス要件の定量化がオフィスづくりの第一歩

シービーアールイー株式会社 代表取締役社長兼CEO 坂口 英治

シービーアールイー株式会社 代表取締役社長兼CEO 坂口 英治

ワークプレイスの要件を定量化することが
ニューノーマル時代のオフィスづくりの第一歩。

新型コロナウイルスの感染拡大は、ワーカーの意識にどう影響したのでしょう。

坂口■一番大きく影響を受けたのは、働き方改革の提唱以来の懸案事項だったテレワークが、待ったなしに導入されたことです。これまでの業務フローが暗黙知、形式知として確立されていたため、急な作業形態の変化にも、最低限のチームワークを保ったまま業務を遂行できたことは良かったのではないでしょうか。ただ、ワークフロムホーム(=在宅勤務、以下WFH)を経験して、多くのワーカーが自宅でも会社と同等か、それ以上に効率的に働けていると感じているようです。オフィスでは余計な仕事を振られて、自分の時間がマネジメントできない状況がある。WFHなら上司の不必要な介在が最低限に抑えられる、という事実が改めて浮き彫りになったということです。いずれにしろ、社内文化を構成する社員個々の意識そのものに影響が出ているわけです。

経営層の変化はどうでしょう。

坂口■最も驚くのは、多くの経営者が「WFHがうまく機能している」という見解をメディアに示したことです。これは言い方を変えれば、これまでのオフィスの存在意義を否定しているようなもの。立地を吟味し、高いコストをかけてつくり上げたオフィスに、時間をかけて通勤させながら、その空間でワーカーに何をお願いしていたのか。会社と在宅とで生産性が変わらないとしたら、今後どう働くかを考える時、広さやオフィスレイアウト以前に、先ほど挙げた社内文化やマネジメントのあり方を含めた、オフィスの定義をもう一度考え直すべきでしょう。

一部で「オフィス不要論」も取り沙汰されていますが、今後のオフィスマーケットはどうなっていくのでしょうか。

坂口■一部の業界を除いて、売り上げが大幅に減少している状況においては、景気が回復して元に戻らないうちは、経営上、当面は唯一の方法であるコスト削減一辺倒になるでしょう。そのためオフィス縮小や一部、WFHの継続は致し方ないところで、現に都心中心部のオフィスを解約して、郊外部や臨海部のリーズナブルなエリアに移転する企業も出てきています。大きな床面積を使用する大企業も、株主総会が終わった7月以降、オフィス移転の中心となりやすい総務部が本格的に動いているようです。景気がいつどの程度回復するのか、どこまでコストを削減すればいいのかという、不透明な要素を睨みながらの動きにならざるを得ないので、現実的には、年明け以降に一気に顕在化してくるのではないかと思われます。

CBRE 丸の内本社オフィス

CBRE 丸の内本社オフィス

リーマン・ショック時のように、急激なマーケット変化が起こるのでしょうか。

坂口■リーマン・ショックの際は、国内の多くのビルオーナーが単なる金融収縮ととらえ、日本への影響は少ないと判断し、強気の姿勢を崩さなかったことが空室率の急上昇の原因でした。ですが今回は、実体験として売り上げの消失を認識しており、大手を含めてオーナーのマーケットへの対応は早いのではないでしょうか。また当時は、ビルオーナーの多くに日本に進出しはじめたばかりのファンドが含まれており、簡単には賃料を下げられない事情がありました。しかし今日では、J-REITや私募REITなども長期投資を目論んでおり、大規模かつ長期の空室を嫌って、賃貸条件を下げてでも空室を埋めに行く可能性が高いと思われます。ですから、空室率が上昇し賃料が下落することはあっても、新型コロナの影響がこれ以上悪くならなければ底抜けするような状況には至らず、空室率も一気に上がることはなく、じわじわと上昇していくのではと考えています。

空室の増加を防ぐためにビルオーナーがすべきことは。

坂口■当然、努力と工夫が必要です。例えば、ソーシャルディスタンスを守りながら会議をするためには、従来より大きなスペースが必要ですが、その会議室を各企業がそれぞれに持とうとすると稼働の悪いスペースを抱えることになります。でも、今はそんな余裕はない。そこでオーナーがそのスペースを設えて、テナントに優先的に貸し出す。テナントは面積をコンパクトにできるので、その分、単価を高めにいただくようにする。都心の好立地にいたいが無駄は削減したいテナントには有用でしょう。また繁華街から離れたところでは、館内のワーカーのためにカフェやダイニングを用意しているオーナーもいます。そうした細やかなサービスを付帯するアイデアが、今後大手ビルオーナーからいくつも出てきて、それが一般化していくのではないでしょうか。一方、体力のない中小規模のビルのオーナーは、サービスや設備の拡充が難しい分、賃料で勝負することとなります。ですが、受付とか給湯施設とか、これまでは自前で用意することが当たり前だと思われていたスペースを共有した場合に、どのようなメリット、デメリットがあるかを検証することも一つのオプションだと考えます。

シービーアールイー株式会社 代表取締役社長兼CEO 坂口 英治

ウィズコロナ時代のオフィスづくりで気を付けるべき点は。

坂口■キーワードは三つあると思います。まずは「セーフティー」で、これには三つのポイントがあります。一つ目は建物全体の換気や空調、エレベータなどでの密集や接触機会の減少といったビルレベルの対策。二つ目はアクリル板のシールドの設置やIoTなどと連動した混雑の見える化など、什器レベルの対策。三つ目はマスクやフェイスシールドの着用など、個人レベルでの対策の徹底したオフィスであること。次のキーワードは「プロダクティビティ」で、集中して仕事ができる空間や、仲間とのインタラクションができるスペースがあると同時に、個々のワーカーの自宅には敷設できない、生産性を高める最先端のテクノロジーの導入。三つ目は「アメニティ」で、ビルの内外の便利なショップ・レストランや、オープンスペースで食事ができる環境などです。ウィズコロナ、アフターコロナのオフィス環境を考えるうえでこの三つは重要で、この観点がないとオフィスに人を呼び戻すことは難しいでしょう。さらに言えば、人材獲得面でのエリア選定も、これまで以上に重要になってきます。例えば、これまでもIT系の人材獲得を目的に渋谷に拠点を設ける企業が多数ありましたが、ターゲットとなる人材にとって今後も渋谷が魅力的なのであれば、このエリアを選択する意義は大きい。優秀な人材を確保するために東京都心部にオフィスを構えなければならない業態なのか、あるいは郊外や地方でもOKなのか、各企業の戦略によってその中で最適な場所を選択する流れは、今後増々強まっていくものと思います。

そうしたオフィスを実現する上での方策は。

坂口■オフィス構築は企業にとって高額な投資であり、これまでは何人いるから何坪が必要とか、どこまで設備すればより働きやすいかという観点でつくられてきました。ですが、今後は会社、サテライトオフィスやコワーキングスペース、WFHと、働く場所が多様化するのは間違いありません。その中でのオフィスを考えるなら、まずは要件を定量化することから始めなければならないでしょう。オフィスに通勤する人とそれ以外のメンバーを、どんな要因に基づいて、どのように振り分けていくのが最適か。例えば1,000人の従業員がいる会社では、通勤時間という軸で切った場合、何分を超えたら出社するより、在宅のほうが生産性が高いとか。通勤時間だけでなく年齢や家族構成で違う可能性もあるので、考えられる要素をクロスチェックする形で、本社で働く最適人数、在宅で働いても支障がないだろう最適人数を明確にする。場合によってはサテライトオフィスなどのサードプレイスを何らかの形で確保したほうが効率的という層が何人くらいいるのか。これらを定量化する時期に入ってきていると思っています。絶対的な正解はないですから、データを集め、分析に基づいてトライ&ラーニングを重ねてより良い解を探していく。そのうえで日々、売り上げや従業員の満足度などを検証しながら改善していくことが求められます。CBREとしても、今後の実績や調査・研究などを通してより多くのデータを蓄積し、新しいオフィスのあり方を積極的に提案していきたいと考えています。

ありがとうございました。

上記の記事の内容は BZ空間誌 2020年冬季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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