老舗の街と融合した 多面的な広がり
江戸時代、商業・文化の中心として栄華を極めた日本橋が、往時の賑わいを取り戻そうとしている。魚河岸に端を発し、やがて自らの名品のお披露目の場として、全国から大店が集まり発展した日本橋は、やがて老舗の街となり今に語り継がれている。だが、それ故に敷居が高く、固定客に頼らざるを得ないという閉塞感があったのもまた事実だ。
その日本橋に、新たな息吹を吹き込んだのが三井不動産の日本橋再生計画だ。端緒となったのは、2004年に開業した「コレド日本橋」。界隈の大型集客施設である日本橋髙島屋と日本橋三越本店の各百貨店は、それぞれ東京メトロの日本橋駅、三越前駅と直結しているため、わずか1駅間の距離でありながら人の往来は乏しかった。その中間にコレド日本橋が誕生したことで新たな人の流れが生まれた。しかも、30~40代の働く女性という、当地の日本橋では取り込み切れなかった購買層の獲得に成功したのだ。
さらに2005年には「日本橋三井タワー」、2010年に「コレド室町」、そして2014年に「コレド室町2・3」が相次いで開業したことで、点から線、そして面へと、日本橋の商業集積は大きな広がりを見せている。
成功の要因の1つは、各施設に目的性を持たせたこと。トレンドファッションの「日本橋」、飲食に強みを持つ「室町1」、日本橋初のシネマコンプレックスを擁する「室町2」、物販に力を入れた「室町3」、ホテルと美術館を併設した「タワー」が限られたエリアに集中することで、若者やファミリー、観光客を含めた来訪者の回遊性が大きく向上した。
街との融合性を高めたことも大きい。タワーや仲通りの路面店を中心に、多数のテラスを設けて、人を1つの商業施設に留めるのではなく、街全体を楽しむ環境をつくり出している。
日本橋の顔である老舗店を巻き込んだことも成功の要因だ。「室町2・3」のオープン時に開催した「日本橋桜バル」には、老舗の飲食店も積極的に参加した。3,000円のチケット購入でいくつもの店が回れるとあって、利用者が喜ぶのはもちろん、店にとっても新たな客層の獲得につながったと好評を得た。日本橋発祥の同社のリレーションあってこその施策だろう。こうした施策により、地元の老舗店や百貨店はもちろん、夜の賑わいも創出され、地域全体での売上が向上している。
同社の日本橋再生計画は現在、第2ステージに入っており、今後も日本橋・八重洲を中心に大型開発が進行中だ。また、人形町や浜町、横山町など、独特の風情を持った街へのエリアの拡大も視野に入れ、商業戦略を展開している。住宅開発と合わせた複合的な街の進展といった、総合デベロッパーならではの構想も計画されているという。さらに「水都再生」として、日本橋の下を流れる日本橋川沿いの開発計画も始まる予定だ。新生日本橋がどのような姿に変貌するか、楽しみは尽きない。