出典:日本土地建物株式会社
1.はじめに
オフィスビルで省エネルギーを考えるとき、ビルの設備更新による省エネルギー性能の向上に加えて、テナントが使用しているエネルギーの使用量をいかに削減するかがポイントとなる。一般的なオフィスビルでは、ビル全体のエネルギー使用量の70~80%はテナント使用分が占めているからだ〔図表1〕。環境に配慮した仕様となっている最近の新築ビルと比較して、ある程度築年数の経過した既存ビルでは、テナント使用部分の省エネルギーにはより積極的な対策が必要となる。
今号では、早くから建物の省エネルギー対策に取り組んできた日本土地建物株式会社(以下 日土地)が、株式会社日立製作所(以下 日立)と共同で、ビルの省エネルギー、CO2排出量削減対策の一環として、東京都千代田区の「日土地内幸町ビル」(1974年竣工)に導入したビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)とその効果検証結果をもとに、既存ビルで大きな効果を期待できる省エネルギーの最新ソリューションを紹介する。
2 BEMSの効果検証を実施
日土地では、これまでも保有するビルの設備更新・運用改善や、テナントへの省エネルギーの協力依頼等によりビル全体の省エネルギー対策に取り組んでおり、テナントに対してはエネルギー使用量の報告を1ヶ月ごとに実施している。
一方でテナントにおいては、昨今の省エネルギーに対する意識の高まりやピークカットの観点から、時間単位でのエネルギー使用量をタイムリーに把握し、使用量の削減を促進したいというニーズが高まってきている。
そこで日土地は、既存ビルにおけるさらなる省エネルギー、CO2排出量削減対策のモデルとして、テナントが自らタイムリーにエネルギー使用量を把握することができる「見える化」と、既存空調設備の中央熱源機器の高効率運転制御の実現を目的に、「日土地内幸町ビル」に日立が開発した統合型ファシリティマネジメントソリューション「BIVALE(ビヴァーレ)」を導入。日立と共同でその効果検証を2012年2月1日から実施した
「BIVALE」とは、クラウドコンピューティングを活用して、複数のビルや事業拠点の「エネルギー」「セキュリティ」「設備」の統合管理を行い、ビル経営と運用における課題を解決する中小規模ビル向けのソリューションサービス。クラウドを通じてサーバーレスで自前のPCから運用・管理をコントロールできるため、投資を抑えた導入ができる。遠隔地にあるビル内の設備の稼働状況やエネルギー使用量、入退室履歴データの閲覧、設備故障監視などが行えるだけでなく、映像を確認しながらビル設備を制御するといった操作も可能である。
セントラル空調方式のビルのエネルギー管理においては、ユーザー(設備管理者)は、PCからインターネットを経由して季節・時刻ごとの単価を入力すれば、熱源システム全体の運転コスト(またはCO2排出量)が最小となる熱源機器の台数、組み合わせ、および冷温水の流量や温度の最適な組み合わせを5分ごとに演算し、運転制御を行うことができる。また基本的に「BIVALE」は制御する熱源機器のメーカーを限定しないため、既存の機器に応じてカスタマイズすることも可能である。
3 BIVALEの機能
「日土地内幸町ビル」では、ガスをエネルギーとする吸収冷温水機と電気をエネルギーとする空冷HPチラーの熱源システムで建物全体の空調を行う、セントラル空調方式を採用している。しかしガスと電気の単価は、季節・時間帯により変動する。そのため、同じ機器の組み合わせで運転していても運転コストは変動し、高コストな運転となっている場合があった。
また、冷房の場合、送水温度を上げれば熱源機器のエネルギー使用量は削減されるが、流量やポンプのエネルギー使用量が増えるといった相反する関係にあるため、従来はそれを設備管理者が随時状況を判断して手動で制御していた。
今回、「日土地内幸町ビル」に導入された「BIVALE」機能の概要は以下の通りである〔図表2〕。
項目 | 機器番号 | 名称 | 仕様 | 台数 |
---|---|---|---|---|
熱源機 | RH-1・2 | ガス冷温水器 モジュール型(3ユニット) |
●冷房能力:633kW ●暖房能力:515kW |
2台 |
RR-1・2 | 空冷チラー モジュール型(6ユニット) |
●冷房能力:480kW ●暖房能力:510kW |
2台 | |
補機 | PCD-1・2 | 冷却水ポンプ | 水量:2,992ℓ/min | 2台 |
CT-1・2 | 冷却塔 | 水量:2,992ℓ/min | 2台 | |
PCH-1・2 | 冷温水1次ポンプ | 水量:1,296ℓ/min | 2台 | |
PC-1・2・3・4 | 冷水2次ポンプ | 水量:1,140ℓ/min | 2台 |
1.空調熱源システムの高効率運転制御
(1)熱源機台数の最適化制御
ガスをエネルギーとする吸収冷温水機と電気をエネルギーとする空冷HPチラーの運転コストを自動計算し、運転コスト(またはCO2排出量)が最小となる組み合わせを演算し、運転台数の制御を行う。
(2)冷温水流量と温度の最適化制御
熱源システム全体の運転コスト(またはCO2排出量)を最小とするため、冷温水の流量、および温度の最適な組み合わせを演算し、運転制御を行う。
(3)冷却水ポンプ流量制御・台数制御
吸収冷温水機の各号機の運転信号から、必要となる冷却水流量を計算し、ポンプの運転台数や、流量の制御を行う。
(4)2次ポンプ流量制御・台数制御
流量から必要な運転台数、圧力から必要となる流量を演算し、ポンプの運転台数や、流量の制御を行う。
2.テナントに対するエネルギーの「見える化」
(1)無線計測装置によるエネルギー使用量自動検針
各テナント(フロア・系統単位)におけるエネルギー使用量を、無線計測装置により自動検針する。無線のため、配線等の施工コストを大幅に低減することができる。
(2)各テナントにおけるエネルギー使用量のデータ閲覧〔図表3〕
①統計データ
「時間ごと」「日ごと」「月ごと」のエネルギー使用量のグラフ表示およびデータのダウンロードを行う。
②分析データ
目標値との比較表示、当年度・前年度・前々年度との比較表示およびデータのダウンロードを行う。
4 BIVALE導入のメリット
「日土地内幸町ビル」に「BIVALE」を導入した結果、次のような効果が得られた。
【ビル全体】エネルギー使用量の削減
設備管理者が空調の冷温水の温度・流量を監視し手動により運転台数の制御を行っていた2010年度と比較して、熱源設備にかかる1次エネルギー※1使用量を、2012年夏(6月1日~9月30日)に約29%削減、通年で約31%削減※2できることが実証された。
※1 石油等の化石燃料や太陽光・水力等自然界から直接得られるエネルギーのこと。
※2 1次エネルギー換算係数 電気:9.97MJ/kWh、ガス:45MJ/N㎥を用いて算出、比較した。
【テナントサイド】「見える化」による省エネ推進
エネルギー使用量の「見える化」により、テナントが自ら時間・日・月ごとのエネルギー使用量の推移および照明・空調・コンセントの用途別使用量を把握でき、どこにどれだけ無駄があるか一目瞭然となった。さらにはデータの信頼性や視認性が向上し、省エネ意識が高まるとともに、各テナントの省エネルギー対策の基盤となっている。
また、節電効果が可視化されるので、必要以上の無理のある節電行動を抑止する効果もある。
【オーナー(ビル管理)サイド】作業の省力化・高効率化
これまで「日土地内幸町ビル」では毎月、人手により90ヶ所の電力メーターを検針してきたが、「BIVALE」導入により自動検針が可能となり、その結果をインターネットでテナントに提供できるようになった。設備管理者の作業負担が低減された分は、業務の質の向上やテナント支援サービス強化に充てている。
日土地と日立は、今後も同ビルにおいて「BIVALE」による効果検証を継続し、省エネルギー、CO2排出量削減の向上に努めるとともに、他の既存・同規模の日土地保有ビル5棟にも導入、運用をはじめている。省エネルギーだけでなく、ビル管理運営能力を高め、既存ビルの付加価値を高める計画である。
日土地内幸町ビル | |
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敷地面積 | 1,756㎡ |
延床面積 | 15,341㎡ |
基準階延床面積 | 820㎡ |
規模 | 地上11階、地下2階 |
竣工 | 1974年7月 |
5 テナントと協働して省エネ対策を
既存ビルの省エネルギー対策においては、テナントとオーナーサイドの協力が不可欠である。日土地では、機器やシステムの導入だけではなく、運営面においてもテナントと協働で省エネルギー活動を推進している。 例えば、環境負荷軽減に向けて話し合う「テナント会議」の実施のほか、ビルを利用する人たちに向けて、ビルのCO2排出量削減・省エネルギーなどに関して環境に貢献するアイデアを募集する「省エネ推進コンクール」を主催するといった取り組みを行っている。このコンクールはテナント379社を対象に2009年1月に行い、その結果、100社から約1,200件ものアイデアが集まった。
6 公的補助金の利用
ビルの環境配慮対策には、ビルの設備更新に合わせて、よりエネルギー効率が高い機器を導入することがポイントとなるが、LCC(ライフサイクルコスト)低減を勘案した場合、公的な助成や補助金を積極的に活用することが有効となる。
日土地では、「日土地名古屋ビル」における照明の高効率化、外壁窓の二重化や、「新大崎勧業ビルディング」における照明器具更新などで助成制度(補助率1/3)を活用している。
なお、本稿で紹介した「BIVALE」について、日立は「平成23年度エネルギー管理システム導入促進事業費補助金(BEMS導入事業)」のエネルギー利 用情報管理運営者(BEMSアグリゲータ)に登録されているため、「BIVALE」は補助金の対象となり、導入費(設備費、工事費)の1/2または1/3 の補助金制度を利用することができる※。
※詳細は日立のHP参照「BIVALE」による補助金活用のご紹介
http://www.hitachi.co.jp/Div/omika/product_site/urban/bivale/subsidy/pop_subsidy.html#subsidy_05
7 この秋竣工、環境フラッグシップビル
ここまで既存ビルの省エネルギー対策について紹介してきたが、新築ビルにおける環境対策がどこまで進んでいるかについても触れておこう。
2013 年10月竣工予定、東京メトロ銀座線虎ノ門駅徒歩3分に立地する「日土地虎ノ門ビル」は、日土地グループが「環境フラッグシップビル」と位置付ける最先端 の環境配慮・省エネルギー性能を備えた制振構造のオフィスビルである。環境配慮への取り組みに社会的な要請が高まる中、CSRの観点から何ができるかを追 求し、計画された。
延床面積1万1,508㎡、ワンフロア813.68㎡(246.13坪)の中規模ビルながら、19種もの環境関連設備・ 省エネルギー技術を導入。例えば全館LED照明を用いるほか、屋上に太陽光発電パネルを設置し、予測使用電力量の1%をまかなう。BEMSを採用し、エネ ルギー使用量の「見える化」も実施。また外構にはドライミストを設置し、敷地周辺の熱負荷低減にも貢献する。
特徴の一つは、窓周りの構造。サッシを二重にし、その間の約30㎝の空間に室内の空気を循環させることで日射熱の影響を和らげ、空調の負荷を低減する。さらに太陽光追従型の電動遮熱ブラインドで日射を制御する。
新築ビルの外装は一般に、外気を完全に遮断した気密性の高いカーテンウォールが主流だが、このビルでは、春や秋の省エネルギー性と快適性を確保する狙いで、床近くに換気口を設けて外気を取り込めるようにしている〔図表4〕。
複数の第三者認証を取得
「日土地虎ノ門ビル」は、下記の環境認証を取得(予定含む)している。
■「LEED(Core&Shell)」ゴールド認証取得予定
米国NPOのUSGBC(米国グリーンビルディング協会)による建築物環境評価認証。欧米で広く周知されている。
■DBJ Green Building 認証「Platinum2012(プラン認証)」(最高ランク)取得/2012年8月
日本政策投資銀行により創設された制度。ビルの環境、防災、防犯、および不動産を取り巻くステークホルダーからの社会的要請、時代の要請に応えた優れた不動産を選定・認証する。
■CASBEE-Sランク(最高評価)取得/2012年10月
(一財)建築環境・省エネルギー機構による建築環境総合性能評価システム。
■東京都建築物環境計画書制度 段階3(最高ランク)評価取得
PAL(Perimeter Annual Load:年間熱負荷係数)削減率25%以上、ERR(Energy Reduction Ratio:設備システムの1次エネルギー消費低減率)35%以上達成で取得できる。
米国の建築物環境評価認証制度であるLEED(Core&Shell)では、水資源への十分な配慮が求められるため、雨水再利用システムや超節水型衛生器具を導入したほか、敷地内の緑化に用いる植栽に少量の水でも生育可能な樹木を選択するなど細かな配慮も加えている。
中規模ビルでこれら4つの第三者認証を取得する例はまれである。同ビルは、各認証制度の評価項目をもとに、最も適切な技術を選んで効果的に組み合わせて設計されており、導 入した環境関連設備・省エネルギー技術の種類の多さ〔図表5〕だけでなく、効き目の大きさも客観的に評価されることになる。欧米で認知度の高いLEED認証の取得は、国際戦略総合特区に指定された虎ノ門地区のオフィスビルとして、海外企業の誘致促進にも効果を発揮するだろう。
取材協力/資料・写真提供 日本土地建物株式会社
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